「――はい」
『あ、もしもしハルヒちゃん? マイカです。ゴメンね、今ご実家のお仕事中じゃなかった?』
「はい、絶賛お仕事中ですけど、今は大丈夫です。マイカ先生、どうしたんですか?」
今隣にいるのは陸さんだけだ。彼はわたしの事情をよく知っているし、人の話に首を突っ込むような人ではないので聞かれても問題はないだろう。
『うん、あのね……。あたし、ハルヒちゃんのご実家のホテルに、明日から一週間くらい泊まろうと思って。カンヅメして新作書くの』
「えっ、明日から一週間カンヅメ?」
わたしは目を丸くした。このホテルがリニューアルオープンして半年とちょっと経つけれど、カンヅメしたいという作家先生を受け入れたことは一度もなかったのだ。……まぁ、オーナーであるわたし自身も似たようなものだけれど、それはおいといて。
『そうだよ。あたしね、編集者の市原さんから新作を書いてほしいって言われたんだけど、執筆が全然はかどらなくて。でね、環境が変われば書けるかなぁと思って。でね、思い出したのよ。ハルヒちゃんのお家がホテルだったこと』
「……はあ。ちょ、ちょっと待って下さいね。予約状況と空室状況を確認しますから。電話、切らないでそのまま待ってて下さい」
一週間もの長い滞在は当ホテルでは珍しいし、空いている部屋ってあったかな……? 通話状態にしたままのスマホをコンシェルジュデスクの上に伏せて置き、陸さんに訊ねてみる。
「わたしの同業者の先生が、明日から一週間当ホテルでカンヅメしたいっておっしゃってるんだけど……。今後の予約状況って分かるかな?」
「話、全部聞こえてた。――待ってて、フロントに確認しに行ってくるから」
「うん。――あ、マイカ先生。今、コンシェルジュの人が確認してくれてるので、もう少し待ってて下さい」
スピーカーフォンにして彼女にそれだけ伝えると、すぐに陸さんが戻ってきた。
「電話、スピーカーにしてあるので陸さんから伝えてあげて下さい」
「うん。――柳井マイカ様ですね? 僕はコンシェルジュの高良と申します。当ホテルの予約状況ですが、明日は新規のご予約は一件も入っておりませんので、柳井様のご期待に沿えると存じます」
「……だそうなので、明日から一週間カンヅメして頂いて大丈夫です」
『ホントに!? ありがとう! コンシェルジュのお兄さんもありがとう。じゃあ、明日から一週間、お世話になりま~す♪』
「はい、お待ちしてます。それじゃ、失礼しますね」
――そんなわけで、わたしは密かにマイカ先生を第二章のお客様にしようと決めた。
『あ、もしもしハルヒちゃん? マイカです。ゴメンね、今ご実家のお仕事中じゃなかった?』
「はい、絶賛お仕事中ですけど、今は大丈夫です。マイカ先生、どうしたんですか?」
今隣にいるのは陸さんだけだ。彼はわたしの事情をよく知っているし、人の話に首を突っ込むような人ではないので聞かれても問題はないだろう。
『うん、あのね……。あたし、ハルヒちゃんのご実家のホテルに、明日から一週間くらい泊まろうと思って。カンヅメして新作書くの』
「えっ、明日から一週間カンヅメ?」
わたしは目を丸くした。このホテルがリニューアルオープンして半年とちょっと経つけれど、カンヅメしたいという作家先生を受け入れたことは一度もなかったのだ。……まぁ、オーナーであるわたし自身も似たようなものだけれど、それはおいといて。
『そうだよ。あたしね、編集者の市原さんから新作を書いてほしいって言われたんだけど、執筆が全然はかどらなくて。でね、環境が変われば書けるかなぁと思って。でね、思い出したのよ。ハルヒちゃんのお家がホテルだったこと』
「……はあ。ちょ、ちょっと待って下さいね。予約状況と空室状況を確認しますから。電話、切らないでそのまま待ってて下さい」
一週間もの長い滞在は当ホテルでは珍しいし、空いている部屋ってあったかな……? 通話状態にしたままのスマホをコンシェルジュデスクの上に伏せて置き、陸さんに訊ねてみる。
「わたしの同業者の先生が、明日から一週間当ホテルでカンヅメしたいっておっしゃってるんだけど……。今後の予約状況って分かるかな?」
「話、全部聞こえてた。――待ってて、フロントに確認しに行ってくるから」
「うん。――あ、マイカ先生。今、コンシェルジュの人が確認してくれてるので、もう少し待ってて下さい」
スピーカーフォンにして彼女にそれだけ伝えると、すぐに陸さんが戻ってきた。
「電話、スピーカーにしてあるので陸さんから伝えてあげて下さい」
「うん。――柳井マイカ様ですね? 僕はコンシェルジュの高良と申します。当ホテルの予約状況ですが、明日は新規のご予約は一件も入っておりませんので、柳井様のご期待に沿えると存じます」
「……だそうなので、明日から一週間カンヅメして頂いて大丈夫です」
『ホントに!? ありがとう! コンシェルジュのお兄さんもありがとう。じゃあ、明日から一週間、お世話になりま~す♪』
「はい、お待ちしてます。それじゃ、失礼しますね」
――そんなわけで、わたしは密かにマイカ先生を第二章のお客様にしようと決めた。