「――あっ、京香さんに美優ちゃん! 『さくら祭り』へようこそ。どうぞ楽しんでいって下さいね」 

 十一時ごろ到着された田崎様親子を、わたしは笑顔で出迎えた。やっぱりテディベアの着ぐるみ、着なくてよかった……。

「あ、ハルヒおねえさん。こんにちは」

「オーナーさん、先日はどうも。今日はお言葉に甘えて遊びに来ました」

 美優ちゃんはちょっとぎこちない笑顔でわたしに挨拶を返してくれ、京香さんもわたしに同じような表情で頭を下げられた。

「どうも。今日は厨房スタッフが総力を挙げて美味しいお料理やスイーツをたくさんご用意してますから。楽しんで下さい。美優ちゃん、今日はホテル中のクマさんがお外にいるからね。お友だちになってあげて」

「うん。みゆね、さっきおおきなクマさんにあったよ」

「大きなクマさん……、ああ。あれね、中におじさんが入ってるんだよ」

 美優ちゃんが会ったのはきっと、大森支配人が入っている着ぐるみのことだろう。この子はやっぱりテディベアが好きなんだ。クマさんの話をする時だけ、笑顔とまではいかないけど表情がイキイキするから。

「……あのね、美優ちゃん。ちょっとお耳、いいかな?」

 わたしは彼女の前にしゃがみ込み、お母さんには聞こえないように、こっそり今日のサプライズのことを耳打ちした。

「……えっ、クマさん!?」

「しーっ! お母さんには内緒だよ」

「うん」

 わたしが彼女の小さな唇に人差し指を当てると、しっかり頷いてくれた。
 今日のサプライズは、美優ちゃんには話してもいいと陸さんから言われたけれど、京香さんには内緒にしていようということになったのだ。

「――田崎様、お見えになったみたいだな」

「うん。今、中庭の方に歩いていったよ」

 イベントのメイン会場である中庭へ向かう親子を見送っていると、そこへ陸さんが来た。

「そうか。――さっき、藤下様から電話があった。こっちに向かってるそうだ。あと十分くらいで到着されるらしい」

「分かった。じゃあ、いよいよ作戦開始だね。他のみなさんにも伝えておいて」

 陸さんの報告を聞いて、わたしは()(ぜん)やる気が湧いてきた。……いや、元々やる気がないわけじゃないけれど。
 わたしの考えた作戦はこうだ。
 美優ちゃんが笑えなくなってしまった原因は二つ。お父さんと離れ離れになってしまったことと、そのお父さんからもらった大事なテディベアがなくなってしまったこと。それなら、同じテディベアをもう一度作ってもらってお父さんの手から彼女に手渡してもらえばどうだろうか、と。