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 陸さんはその後、工房へアポイントの連絡をしてから高円寺までバイクを飛ばしていった。その後は寮に直帰するのだという。多分、私服に着替えてから行ったんだと思うけれど。

 わたしは京香さんの元ご主人・藤下駿(しゅん)さんに電話をかけ、美優ちゃんが笑えなくなったことをお話ししたうえで、お嬢さんがまた笑えるように協力してほしいとお願いした。
 離婚したとはいえ、美優ちゃんのお父さまには違いないので、彼は喜んで協力したいとおっしゃった。


「――ねえオーナー、高良さんって制服姿もいいけどライダースジャケット姿もカッコいいよね♡ なんか色気ダダ漏れって感じで」

「…………はぁ」

 フロント係の志穂さんが、仕事中にも関わらずそんなことを言い出したので、わたしはポカンとなった。ちなみにわたしの希望で、ここのスタッフは大森さんを除いて誰もわたしに敬語は使わない。志穂さんもわたしより五つも年上なのだけれど。

 〈ホテルTEDDY〉の従業員の制服は、〈ホテルくまがや〉の頃から変わらず基本的にシックな焦げ茶色を基調としている。デザインこそ担当部署ごとに少しずつ違っているけれど、フロントとコンシェルジュの制服はよく似たデザインになっている。

「そういえば、そもそもオーナーと彼ってどういう関係なの? 高良さん、よくオーナーのオフィスに出入りしてるでしょ?」

 わたしがオーナーになった時、従業員のオーナーオフィスへの出入りは自由にした。でも、その中で最もあの部屋に出入りしているのはやっぱり陸さんだ。志穂さんがわたしと彼との間に特別な関係があると思うのも不思議じゃないかも。

「どういう、って……。陸さんはお父さんが亡くなった時、わたしのことを託されたんだって。わたしの小説のファンでもあるし」

「ふぅん? でも、あたしはそれだけじゃないと思うなぁ。高良さんって絶対、オーナーのことが好きなんだよ」

「え……? そんなこと……ないと思うけど」

 陸さんにとってわたしは、手のかかる妹でしかないと思っていた。

「じゃあオーナーは? 彼のこと好き?」

 志穂さんに指摘され、長い沈黙の後わたしはコクリと頷く。

「あらあら、いいわねぇピュアな恋って」

「志穂さん……、わたしをおもちゃにしないで下さい。それより、『さくら祭り』の日のことなんですけど」

 わたしは無理やり本題に引き戻した。彼女にそのことで協力をお願いしようとしていたのだ。

「もちろん協力させてもらいます。大切なお客様の笑顔のためだもんね」

「ありがとう、志穂さん!」