「……田崎様、今おっしゃったのはどういう……?」

「オーナーさん……。高良さんも。ごめんなさい、お見苦しいところを見せてしまって」

 困り果てたように引きつった笑いを浮かべるお母さんと、テディベアを抱きかかえたまま火がついたように大泣きする美優ちゃん。この親子がテディベアを巡ってケンカしていたことは明白だった。

「美優が、ここの部屋にあったテディベアを家に連れて帰るんだって言って聞かなくて。この子が大事にしていたぬいぐるみにそっくりだったもので」

「……高良さんはお母様のフォローをお願いします。――美優ちゃん、ちょっといいかな? お姉さんとおハナシしよう?」

 わたしは陸さんに対応を指示して、小さなお客様に目線を合わせようと彼女の前にしゃがみ込む。大泣きしているとはいえ、六歳なら話せばわかってもらえると思う。

「…………うん」

 やっと泣き止んでくれた美優ちゃんは、わたしの話を聞く態勢になってくれた。

「ねえ美優ちゃん、この子はね、このホテルのクマちゃんなの。ここにはこの子のお友だちとか兄弟がいーっぱいいるんだ。だからね、この子が美優ちゃんのお家に行っちゃったらみんな淋しがると思うの。美優ちゃんは、このお部屋にいる間だけ、この子のお友だちでいてあげてくれるかな?」

「……うん、わかった」

 テディベアの頭を撫でながら、幼い美優ちゃんにも分かってもらえるように話すと、美優ちゃんは納得してくれた。ようにわたしには見えた。

「よかった、分かってもらえて。美優ちゃん、ありがとう。――高良さん、しばらくこのお客様を他のテディベアのところへ案内して差し上げて下さい。確かこの隣のお部屋は空いているはずなので。わたしはお母様とお話があります」

「かしこまりました。――お客様、隣のクマさんのところへご案内します。どうぞ、ついてきて下さい」

 美優ちゃんが陸さんと一緒に部屋を出るのを見届けたわたしは、今度は京香さんに向き直った。

「お母さま、先ほどおっしゃりかけたことなんですけど。美優ちゃんの宝物だったテディベアをどうされたんですか?」

「……あのクマは、あの子が知らないうちに処分してしまいました。フリマアプリに出品して、もう売れてしまって。発送も済んでしまっってからあの子に訊かれたんです。『お母さん、美優のクマちゃん知らない?』って。大事にしていたテディベアがなくなってからです、あの子が笑わなくなってしまったのは。……全部、私のせいなんです!」