――翌朝、わたしと陸さんは手分けして早番のスタッフさんたちに、去年まで田崎さん親子にお泊まり頂いた時のことで何か憶えていることはないか訊いて回った。というか陸さんはもう遅番の勤務時間を過ぎていたのに、今日もまた残業をしている。でもまあ、今日はオーナーであるわたしも公認の残業なのでよしとしよう。
「コンシェルジュの高良さんが言うには、美優ちゃんはテディベアを抱えてたらしいんですけど。志穂さん、憶えてませんか?」
「大森さん、田崎様のお嬢さんって去年いらっしゃった時、確かテディベアをお持ちじゃありませんでした?」
――三十分ほど聞き込みをした結果、みんながこう答えてくれた。美優ちゃんは確かに去年まで、可愛いテディベアを持っていたと。
「美優様が抱えておいででしたテディベアは、一歳のお誕生日にお父さまからプレゼントされたものだそうでございますよ。美優様の宝物なのだとお母さまがおっしゃっておりました」
とは大森さんの証言。そんな宝物だったテディベアを、美優ちゃんは今年どうして持っていなかったのか。ご両親の離婚も無関係ではなかったのかな。
――と、コンシェルジュデスクの電話が鳴った。早番の本橋さんは他のお客様の対応をしているので、陸さんが受話器を取る。
「はい、コンシェルジュの高良が承ります。――はい、かしこまりました。ただちにお部屋まで伺いま……えっ? オーナーも一緒にでございますか?」
彼はたまたますぐ側にいたわたしと目を見合わせる。オーナーのわたしまで呼ばれるとは、よほどの事態が起きたのだろう。わたしは彼に「うん」と頷いて見せた。
「はい、すぐ近くにおりますので今すぐ参ります」
「――陸さん、どのお部屋?」
「三一二号室の田崎様だ。行くぞ」
「うん」
わたしは陸さんについて、エレベーターで三階へ上がっていった(小さなホテルだけれど、一応エレベーターも設置されているのだ)。陸さんが田崎様のお部屋のドアチャイムを押しながら室内に呼びかける。
「田崎様、高良でございます。失礼いたします」
ドアがロックされていないことをわたしが確認し、ドアを開ける。すると、中では美優ちゃんがこの部屋に置かれていた焦げ茶色のテディベアを抱きしめて泣きじゃくっていた。
「イヤだぁ! このクマちゃん、みゆがおうちにつれてかえるの~っ! このこはみゆのだもん!」
「このクマちゃんは美優のじゃないでしょう!? 美優のクマちゃんはもう、よそのお家に……、あ」
ヒステリックに叫んでいた京香さんが、わたしたちの存在に気づいたのか、それとも言ってはいけないことを口走ってしまったからなのか、「しまった」というように口元を押さえた。
「コンシェルジュの高良さんが言うには、美優ちゃんはテディベアを抱えてたらしいんですけど。志穂さん、憶えてませんか?」
「大森さん、田崎様のお嬢さんって去年いらっしゃった時、確かテディベアをお持ちじゃありませんでした?」
――三十分ほど聞き込みをした結果、みんながこう答えてくれた。美優ちゃんは確かに去年まで、可愛いテディベアを持っていたと。
「美優様が抱えておいででしたテディベアは、一歳のお誕生日にお父さまからプレゼントされたものだそうでございますよ。美優様の宝物なのだとお母さまがおっしゃっておりました」
とは大森さんの証言。そんな宝物だったテディベアを、美優ちゃんは今年どうして持っていなかったのか。ご両親の離婚も無関係ではなかったのかな。
――と、コンシェルジュデスクの電話が鳴った。早番の本橋さんは他のお客様の対応をしているので、陸さんが受話器を取る。
「はい、コンシェルジュの高良が承ります。――はい、かしこまりました。ただちにお部屋まで伺いま……えっ? オーナーも一緒にでございますか?」
彼はたまたますぐ側にいたわたしと目を見合わせる。オーナーのわたしまで呼ばれるとは、よほどの事態が起きたのだろう。わたしは彼に「うん」と頷いて見せた。
「はい、すぐ近くにおりますので今すぐ参ります」
「――陸さん、どのお部屋?」
「三一二号室の田崎様だ。行くぞ」
「うん」
わたしは陸さんについて、エレベーターで三階へ上がっていった(小さなホテルだけれど、一応エレベーターも設置されているのだ)。陸さんが田崎様のお部屋のドアチャイムを押しながら室内に呼びかける。
「田崎様、高良でございます。失礼いたします」
ドアがロックされていないことをわたしが確認し、ドアを開ける。すると、中では美優ちゃんがこの部屋に置かれていた焦げ茶色のテディベアを抱きしめて泣きじゃくっていた。
「イヤだぁ! このクマちゃん、みゆがおうちにつれてかえるの~っ! このこはみゆのだもん!」
「このクマちゃんは美優のじゃないでしょう!? 美優のクマちゃんはもう、よそのお家に……、あ」
ヒステリックに叫んでいた京香さんが、わたしたちの存在に気づいたのか、それとも言ってはいけないことを口走ってしまったからなのか、「しまった」というように口元を押さえた。