気落ちしてうつむいたまま歩き始めると、10メートルほど行った時、後ろから大きな音が聞こえた。
 顔を上げると、バスが追い越していった。
 それを追って前方に視線をやると、バス停が見えた。
 その瞬間、目を疑った。
 探していたあの女性がバス停にいたのだ。
 あの鮮やかな色の物を身に着けた女性に間違いなかった。
 
 心臓が止まるかと思った時、バスが停車した。
 扉が開いたらしく、彼女が乗り込もうとしていた。
 慌てて駆け出して、「乗ります!」と手を振りながら必死で走ったが、無情にもバスは発車してしまった。
 わたしは呆然としてバスの後姿を見送った。
 行先表示器に示された見知らぬ地名がどんどん小さくなっていくのを、なす術もなく見送るしかなかった。