それは、とても深い眠りだった。
 だからだろうか、すっかり疲れが取れて、気持ち良く目が覚めた。
 しかし、耳を澄ませても物音一つ聞こえてこないので不安になった。
 でも、まだ夜明け前かもしれないと思い直して、心を落ち着けた。
 
 それでもじりじりとしながら待っていると、ようやく階段を下りてくる音が聞こえてきた。
 そして、すぐにリビングのドアがバタンと締まった。
 
 朝ご飯だろうか? 
 だとすると、もうすぐだ。
 
 ウキウキしながらその時を待った。
 しかし、長かった。
 夜明け前から待っているのだ。
 1秒が1時間に感じられるほど時の経つのが遅かった。
 
 早くして!
 
 叫んだ途端、想いが通じたのか、ドアが開く音が聞こえて、スリッパたちがパタパタと音を立てて近づいてきた。
 
「わ~、息が白いわ」

 ご主人の声だった。

「風邪をひかないように、しっかり温かくしていってね」

 お母さんの声だった。

「うん。マフラー巻いたし、厚手の手袋にしたし、今日はブーツで行くわ」

 靴箱が開くとご主人の手は躊躇なくわたしに伸び、2日ぶりにお供をすることになった。

 あ~、ご主人の足の温かさが身に染みる。
 それに足の匂いが鼻をくすぐり、一気に幸せに包まれた。
 いやただの幸せではない。
 もしかして至福? 
 そうだ、至福だ。
 これ以上はない幸せだった。