泣き疲れたせいか、いつの間にか眠っていた。
 ご主人が帰ったのも、ハイヒールが棚に戻ったのも知らなかった。
 それほど深い眠りだった。
 でも、そのせいか、音が聞こえた時にパッと目が覚めた。
 それは、ご主人のスリッパの音だった。
 待ちに待った朝が来たのだ。
 
 気温は?
 
 すぐに全身の感覚を研ぎ澄ませた。
 しかし、寒くはなかった。
 いや、温かいと言った方が当たっている感じだった。
 落ち込んだ。
 思い切り落ち込んだ。
 気分がどんどん沈んでいった。
 そんな状態の中、お母さんの声が聞こえた。
 
「暖冬かも知れないわね」

 一瞬にして心が凍った。
 暖冬……それは最悪の言葉だった。
 もう二度と履いてもらえないかもしれない、と思うと恐怖に震えた。
 
 神様お願い、厳冬にしてください!
 
 必死になってお願いをした。
 
 いつまでも春が来ませんように!
 
 必死になって祈り続けた。