「私の飼い主、浮気しているのよ」

 えっ、
 いきなり何? 

 聞いてはいけないことを聞いてしまった気がしてまごまごしていると、トイプードルが近づいてきた。
 
「私のとこもよ」

 ねえ、というふうに二頭が目を合わせて、同時に頷いた。

「相手は家庭教師なの。大学院生」

 ポメラニアンだった。

「うちはイケメンの庭師。多分30代」

 トイプードルだった。

「昼間から連れ込んでやってるのよ」

「うちもよ」

 二頭がじろっと飼い主を見つめた。

「知らないのは亭主ばかりなりってね~」

「お気の毒にね~」

 ここにはいない夫二人を憐れんだ。

「あなたも浮気してるの?」

 ポメラニアンがいきなり矛先をこちらに向けた。

 わたしは頭を振った。

「嘘おっしゃい」

 トイプードルが鋭い目付きで見たので、わたしは思い切り頭を振った。

「まだ独身だから……」

 すると、二頭の目が光った。

「やり放題じゃないの!」

「手あたり次第に千切っては投げ、千切っては投げって感じでしょ」

 二頭が興味津々という目でわたしを見つめので、即座に首を強く振った。

「フリーセックスには興味がないの?」

 ポメラニアンが訝しげな目になった。

 頷くと、「据え膳も?」と畳みかけてきた。

 わたしは、また頷いた。
 女性に対しては、とても慎重だった。
 性欲は普通にあるが、それが最優先ではなかった。
 それより琴線に触れるかどうかを大事にしていた。
 だから、今まで付き合った女性は多くない。
 というよりも少ない。
 
「つまんない男ね」

「ほんと。犬も食わないわね」
  
 わたしに興味を失くした二頭が飼い主の足元へ行って纏わりつくと、それをきっかけにするように世間話が終わった。
 年齢不詳の若作り女性と、金持ち風小太り中年女性はそれぞれのペットを連れて別々の道を歩き出した。