その後姿を見つめていると、痛みに加えて寂しさと不安が襲ってきたが、そんなことは関係ないというように男に再び掴まれて、棚に移された。

 右隣には赤いハイヒールがいた。
 挨拶したが、シカトされた。

 左隣を見た。
 紳士用のブーツがいた。
 このブーツはどこを修理するのだろう、と思っていたら声をかけられた。
 
「かなり重傷のようだな」

 心配そうにわたしを見たので、思わず今朝の顛末(てんまつ)を詳しく話した。
 すると、心から同情するような声で「大変だったな」と慰めてくれたが、すぐに「しかし、そいつは男の風上にも置けない最低野郎だ!」と憤慨(ふんがい)の声に変わった。
 
「それにしても可哀そうだったな、イタリア生まれの紳士靴君は」

 今度は憐れむような声になった。

「でも、立派な最後でした。わたしのご主人を守るために自らを犠牲にしてくれたのです。誰にでもできることではありません」

 わたしはイタリア生まれの紳士靴君に手を合わせた。
 すると、紳士用ブーツも一緒に手を合わせてくれた。
 その姿を見て、痛みが少し和らいだように感じた。