痛い! 
 引きちぎれそうに痛い!

 わたしは怪我をしていた。
 痴漢野郎を踏みつけた時、その衝撃でピンヒールの根元に亀裂が入ったのだ。
 折れてはいないが、かなりひどい状態のようだ。
 
 誰か助けてくれ!
  
 大声で叫んだ。
 しかし、声はご主人に届かなかった。
 痛みは完全に限界を超えていたが、耐え続けるしかなかった。
 
 ご主人は流石に歩きにくそうだった。
 ピンヒールの根元がぐらぐらしているから当然だ。
 でも、立ち止まるわけにはいかない。
 会社に遅れるわけにはいかないのだ。
 わたしは歯を食いしばって痛みに耐えた。
 
 頑張った甲斐があって、なんとかギリギリ間に合った。
 始業のチャイムが鳴る前にご主人は自分の席に着き、室内履きに履き替えて、ピンヒールの根元を確認した。
 すると、亀裂を見つけたようで、ため息のようなものが漏れた。
 首を何度か振ったあと、大きな紙袋にわたしを入れた。
 
 一瞬にして何も見えなくなった。
 動くこともできなくなった。
 それだけでなく、痛みが増していた。
 じっとしていてもズキズキと痛むのだ。
 それは時間の経過と共に酷くなっていった。
 しかし、自分ではどうすることもできない。
 苦痛に耐え続けるしかなかった。