「でも」

「でも、なんだ?」

「まだ痴漢をしているとは言えない。この状態でお前の主人を罰することはできない」
「何故だ。俺はこいつが痴漢しているところを何回も目撃しているんだぞ。手の甲を押し当てて相手の様子を見て、掌で触るチャンスを待っているだけなんだ。これはこいつのやり方なんだ」

「でも、冤罪(えんざい)だったら大変なことになるし……」

「なに言ってるんだ。お前の主人が危ないんだぞ。このまま痴漢の被害に遭いたいのか」

 紳士靴は睨みつけるようにわたしを見て、「俺を信用しろ」と詰め寄った。

「そう言われても、今日初めて会ったばかりだし……」

 声を落とすと、踵に触れている紳士靴のつま先がブルブルと震え出した。

「こんなに心配して忠告しているのに」

 なんともやり切れないというような声を出した。
 それは、心から心配している声に違いなかった。
 わたしはすぐに考えを改めた。