ヤバイ!
 
 思わず大きな声で「何か逃れる方法はないのか」と紳士靴に詰め寄った。
 すると、紳士靴はゴクンと唾を飲み込んで、思い詰めたような表情で声を発した。
 
「よく聞けよ。この先のカーブが連続するところで二度ほど大きく揺れる。その時に俺を踏み付けろ」

「えっ、踏み付ける? でも、そんなことしたらお前が傷つくじゃないか」

「いいんだ。俺はいいんだ。自分を犠牲にしてでもお前の主人を助けたいんだ」

 紳士靴は毅然とした口調で言い切った。
 しかし、その声はすぐに辛そうなものに変わった。
 
「こんな痴漢野郎に買われるとは思ってもいなかった。こんな痴漢野郎に履かれるなんて……」

 絶望の表情が浮かぶと、「靴は買い主を選べない」と更に辛そうな声を発したあと、身の上話を始めた。