電車のドアが開くと、勢いよく人が飛び出してきた。
 まだ降りる人がいるのに、無理にかき分けるように乗車する人がいて、ドア付近は混雑を極めた。
 肩がぶつかったと言って小競り合いしている人もいた。
 
「ドアが閉まります」

 アナウンスと共に発車の音楽が鳴ると、まだ乗り込めていない人がパニック状態になった。
 それはご主人も同じで、今度もお尻を突き出して後ろ向きに乗り込もうとしていた。
 でも、体半分入り切らなかった。
 それでも両足を踏ん張って入ろうとした。
 もちろん、わたしも必死になって踏ん張った。
 
 顔を真っ赤にして踏ん張っていると、発車を知らせる最終のベルが鳴った。
 
 もう少しだ、頑張れ。
 
 気合を入れて、わたしは思い切り踏ん張った。
 すると、なんとかドアの内側に入れそうになったが、どこからか制服の人が来て、乗客の体を押し始めた。
 
 あっ、胸を押される! 
 
 そう思った瞬間、ご主人はハンドバッグを抱えるようにして胸の前で両手を交差した。
 制服の人はご主人の交差した手を押した。
 
 ほっ、
 
 胸を撫でおろすと、ほぼ同時にご主人の体が完全に車内に入った。
 すると、すぐにドアが閉まり、電車が動き出した。
 
 よかった……、
 
 思わず安堵の息が漏れた。