終点で降りると、一気に視界が開けた。
 すし詰め状態からやっと解放されたので大きく深呼吸したが、これでゆっくり、とはいかなかった。
 ご主人は駅へ向かうエレベーターを駆け上がったのだ。
 
 イチニ、イチニ、
 
 わたしはせわしない動きについていくのが精一杯だった。
 それでも、駅の改札を抜けたのでヤレヤレと息を吐いたが、それも束の間、今度はホームに向かって駆け下りだした。
 
 あっ、ぶつかる! 
 
 階段を上ってくる人と至近距離で交差した。
 しかし、幸いにもぶつからなかった。
 
 ふ~、
 
 緊張の連続だ。
 わたしは冷や汗を拭った。
 
 ホームに降りると、多くの人が並んでいた。
 ご主人は人が少なそうな列を探して、その後ろに並んだ。
 そして、ホームの時計を見た。
 何度も見た。
 
 会社に遅れそうなのかな? 
 
 ちょっと心配になったが、すぐに電車が来たので、ほっと胸を撫でおろした。
 しかし、止まった瞬間、嫌な予感がした。
 超満員だった。
 ドアの窓に顔が押しつけられている人が見えた。
 
 え~、これに乗るの? 
 やめてよ。
 死んじゃうよ。
 会社に遅れそうなのはわかるけど、次にしようよ。
 
 ご主人を止めようとした。
 でも、声は届かなかった。
 上目遣いで見ると、ご主人は意を決したような表情でドアを見つめていた。
 
 乗るしかないんだろうな。
 これを逃すと会社に遅れてしまうんだろうな。
 仕方ない。
 
 わたしは覚悟を決めた。