「あなたはブーツ男? それとも、ブーツ子?」

 イギリス訛りの犬語で問いかけられた。

「どっちなの?」

 しつこく訊いてきたが、わたしは答えなかった。
 その代わり、「お前はイヌ男? それともイヌ子?」と問いただした。
 するとその犬は、フン、と鼻を上げて、「私はエリザベスよ」と自慢げに言った。

 えっ? 
 エリザベス?

「そうよ。高貴な生まれなの」

 それを聞いて、思い出した。
 上流階級に人気の犬で、動く宝石とも呼ばれている犬だということを。
 
 確か……、
 そうだ、ヨークシャーテリアだ。
 ヨーキーか……、
 
 なるほど、と思った途端、いきなり「お近づきの印に」と言って、わたしの方にお尻を向けて女座りをしようとした。
 
 えっ、
 それって、
 止めろ! 
 
 焦って叫んだ瞬間、飼い主に紐で引っ張られた。
 オシッコはかからなかった。
 思わず安堵の息が漏れた。
 
「ごめんなさい」

 飼い主がわたしのご主人に謝った。

「何度言ったらわかるの、靴にオシッコしたらダメって言ってるでしょ!」

 エリザベスは思い切り叱られていた。

 べ~、だ。

 思い切りあっかんべ~をすると、エリザベスはバツが悪そうに遠ざかっていった。