意識をはっきりと取り戻す前に、わたしは掴まれて、外に出された。
 そして、玄関の床に置かれ、いきなり足が入ってきた。
 女性の足だった。
 一気に甘い匂いが広がって夢見心地になりそうになったが、靴箱の扉が閉められて現実に引き戻された。
 見ると、全面ガラス張りだった。
 しかし、そこにわたしの姿はなかった。
 ブーツがわたしを見つめていた。
 
 ブーツって……、 

 なんで? どうして? と思う間もなく女性は玄関を出て、コツコツと軽快な音を立てて歩き始めた。

 景色がどんどん変わっていく。
 物凄いスピードで変わっていくので目がついていかない。
 それに、目の位置がバラバラだ。左目は左のブーツに、右目は右のブーツにあるから、彼女が左足を出すと左目が前に行き、右足を出すと右目が前に行く代わりに左目が後ろに下がるのだ。
 ピントというか、遠近感を掴むのが難しい。
 その上、急いでいるのか早足になってきた。
 
 左、
 右、
 左、
 右、

 動きが目まぐるしすぎて、まったくついていけない。
 それに、息が上がってきた。
 
 もっとゆっくり歩いて!
 
 叫ぼうとした時、なんの前触れもなく足が止まった。
 
 ん? 

 信号だった。
 横断歩道の信号が赤になっていた。
 
 ホッとした。
 ここで息を整えよう。