令和六年七月二十一日、日曜日。十二年に一度。大祇祭の当日、午後四時。
 誰にも言わずベルを探すつもりだった。けれどそのもくろみは家を出た瞬間にくずれ去った。

「ゆうちゃん」

 白衣に緋袴(ひばかま)、巫女装束姿の沙羅が、家の引き戸を開けたら立っていた。いつものツインテールを下ろして、見たことの無い、狼の耳に見える銀色の髪留めをつけている。薄く、お化粧をしている。

「えへへ。どかな?」

 はにかむ少女がちょっと下を向いた。とてもよく似合っている。というかもともと顔立ちの整った女の子だったけれど、伝統衣装とお化粧に身を包んだことで、目もあやな美少女になっていた。正直、かなりどきどきした。ベルを初めて見た時くらい、といったら言い過ぎだろうか。

「あの、さ……いっしょに、行こ……?」

 夕暮れにはまだ少し早い午後。七時からの祭りにはまだ早いけれど、いつもは人がほとんどいない道路に、まばらに歩く人がちらほらといる。この村でこんなに人が歩いているのを見たことがない。十一歳のゆうは十一歳の沙羅と、その中を歩く。おっとっと。巫女用の草履を履きなれてない幼なじみが、つまずいた。ぱしっと、ゆうは彼女の手を握って、なるべく優しく自分に寄せてあげた。

「……ありがと……」

 ほっぺたに赤みが差しているけれど、それが傾いたお日さまのせいなのかどうかはわからなかった。