大学生の頃の俺は多感な時期だった。
遅れて来た思春期みたいなものだ。
バスに乗りこみ、二人がけの座席につく。
真後ろには中年の女性が二人座っていた。
後ろの会話は嫌でも耳に入った。
愚痴をこぼしているとすぐにわかる。
「本当にあの子は仕事ができないね」
「頭だけ良くてもだめなのよ」
「だって昼休みに、あの子の箸の持ち方見た?あれはおかしかった」
「見た見た。そりゃ仕事できないわ。
あんな人も給料もらってるんでしょう。やってられない」
おそらく同僚かなにかの悪口だ。
なぜこんな言葉を、理解できてしまうんだろう。
負の感情をまとった言葉にどうにもあてられた。
正しくあれ正しくあれと押し込められる窮屈な社会で、正しければいいかと妥協する自分。
妥協を素晴らしいと評価する世界が息苦しい。
こんなことならいっそ消えてしまいたいとすら思えるほどの自己嫌悪に襲われる。
吐きそうになって俺の右側にある窓に肩でもたれかかる。
バスの揺れが体に直接伝わり頭が痛くなった。
空いてもいない窓の外から新鮮な空気を吸い込むように深く呼吸した。
左側から肩をつつかれた。
反射的にそっちを見ると、水野がすかさずヘッドホンを俺の両の耳に当てた。
いつもの音楽が鳴り響き、後ろのおばさんたちの会話はもう聞こえなかった。
遅れて来た思春期みたいなものだ。
バスに乗りこみ、二人がけの座席につく。
真後ろには中年の女性が二人座っていた。
後ろの会話は嫌でも耳に入った。
愚痴をこぼしているとすぐにわかる。
「本当にあの子は仕事ができないね」
「頭だけ良くてもだめなのよ」
「だって昼休みに、あの子の箸の持ち方見た?あれはおかしかった」
「見た見た。そりゃ仕事できないわ。
あんな人も給料もらってるんでしょう。やってられない」
おそらく同僚かなにかの悪口だ。
なぜこんな言葉を、理解できてしまうんだろう。
負の感情をまとった言葉にどうにもあてられた。
正しくあれ正しくあれと押し込められる窮屈な社会で、正しければいいかと妥協する自分。
妥協を素晴らしいと評価する世界が息苦しい。
こんなことならいっそ消えてしまいたいとすら思えるほどの自己嫌悪に襲われる。
吐きそうになって俺の右側にある窓に肩でもたれかかる。
バスの揺れが体に直接伝わり頭が痛くなった。
空いてもいない窓の外から新鮮な空気を吸い込むように深く呼吸した。
左側から肩をつつかれた。
反射的にそっちを見ると、水野がすかさずヘッドホンを俺の両の耳に当てた。
いつもの音楽が鳴り響き、後ろのおばさんたちの会話はもう聞こえなかった。