「耳の中にサメの顎が発生するって知ってた?」
新は思わず耳に手を当てて何か考えているようだったが、小さく頭を振った。
「生物に初めて顎ができたのは4億年くらい前で、それがサメの先祖だったの。その後、爬虫類や哺乳類という系統になっていくと、メッケル軟骨という顎の骨がどんどん後方に追いやられていって縮小退化していくんだけど、その名残が妊娠4週目頃に現れるの」
「へえ~、サメの顎がね~。ところで、4週目の胎芽のどの部分にその名残が出るんだい」
「だから耳なのよ。中耳にあるツチ骨とキヌタ骨とアブミ骨がその名残なの」
新はこれ以上は開けないというほど目をまん丸くした。
「サメの顎が、人間の中耳に……」
自分の顎を触って、それから耳に手を当てた。
「耳に関してはもうひとつ面白いことがあるわよ。耳の穴はエラの穴の名残なのよ」
「は~?」
今度は、これ以上は無理というほど大きく口を開けた。
「水の中で生活している間はエラが必要だったけど、上陸したら必要なくなるわよね。だからエラは消失したんだけど、その跡に切れ込みができて、そこに鼓膜が張るようになったの。そして、酸素を含んだ新鮮な水を取り入れていた呼吸孔が耳の穴になったのよ」
「つまり、魚のエラや呼吸孔が長い進化を遂げて人間の耳の構造になったってわけだね。凄いな~」
新はゆらゆらと首を横に振った。
「そうなの。ついでに言うと、魚類にあった内耳の一部が拡大して中耳が加わったのが両生類で、爬虫類の段階になると外耳道ができて、哺乳類になって初めて耳介ができたの。だから〈いわゆる耳〉を持っているのは哺乳類だけなの。哺乳類の前に一世を風靡した恐竜はあんなに体が大きいのに耳はなかったのよ。だって、彼らは爬虫類だからね」
新はティラノサウルスやトリケラトプスの姿を思い浮かべたが、確かに耳を見たことがなかった。
「恐竜の耳というのはどうなっていたの?」
「単に穴が開いていただけよ」
「穴だけ?」
「そう。目の後ろ側に小さな穴が開いていて、そこから音を拾っていたの」
「そんなんで、よく聞こえたのかな?」
「どうかしら? でも、私たち人間とは聞こえ方が違っていたことは確かね。集音の役割をする耳介がないから聞こえる範囲がとても狭かったみたいなの。だから、限られた音域と音質しか聞こえなかったんじゃないかと言われているわ」
「ふ~ん。でも、それでも一世を風靡したんだから凄いよね」
「まあね。その当時は敵になるような存在がいなかったから、多少聞こえが悪くても問題なかったのかもしれないわね。だって、今でもワニは最強の王者の一つだけど、彼らにも耳介はないからね」
「そうか……。そうだな、確かに」
ワニが狩りをしている姿を思い浮かべた新は考子の説明に納得したが、突然、耳介のあるワニを想像して笑ってしまった。
「なに笑っているの?」
「いや、なんでもない」
含み笑いをする新を不思議そうに見ていた考子だったが、話を戻すために咳払いを一つした。
新は思わず耳に手を当てて何か考えているようだったが、小さく頭を振った。
「生物に初めて顎ができたのは4億年くらい前で、それがサメの先祖だったの。その後、爬虫類や哺乳類という系統になっていくと、メッケル軟骨という顎の骨がどんどん後方に追いやられていって縮小退化していくんだけど、その名残が妊娠4週目頃に現れるの」
「へえ~、サメの顎がね~。ところで、4週目の胎芽のどの部分にその名残が出るんだい」
「だから耳なのよ。中耳にあるツチ骨とキヌタ骨とアブミ骨がその名残なの」
新はこれ以上は開けないというほど目をまん丸くした。
「サメの顎が、人間の中耳に……」
自分の顎を触って、それから耳に手を当てた。
「耳に関してはもうひとつ面白いことがあるわよ。耳の穴はエラの穴の名残なのよ」
「は~?」
今度は、これ以上は無理というほど大きく口を開けた。
「水の中で生活している間はエラが必要だったけど、上陸したら必要なくなるわよね。だからエラは消失したんだけど、その跡に切れ込みができて、そこに鼓膜が張るようになったの。そして、酸素を含んだ新鮮な水を取り入れていた呼吸孔が耳の穴になったのよ」
「つまり、魚のエラや呼吸孔が長い進化を遂げて人間の耳の構造になったってわけだね。凄いな~」
新はゆらゆらと首を横に振った。
「そうなの。ついでに言うと、魚類にあった内耳の一部が拡大して中耳が加わったのが両生類で、爬虫類の段階になると外耳道ができて、哺乳類になって初めて耳介ができたの。だから〈いわゆる耳〉を持っているのは哺乳類だけなの。哺乳類の前に一世を風靡した恐竜はあんなに体が大きいのに耳はなかったのよ。だって、彼らは爬虫類だからね」
新はティラノサウルスやトリケラトプスの姿を思い浮かべたが、確かに耳を見たことがなかった。
「恐竜の耳というのはどうなっていたの?」
「単に穴が開いていただけよ」
「穴だけ?」
「そう。目の後ろ側に小さな穴が開いていて、そこから音を拾っていたの」
「そんなんで、よく聞こえたのかな?」
「どうかしら? でも、私たち人間とは聞こえ方が違っていたことは確かね。集音の役割をする耳介がないから聞こえる範囲がとても狭かったみたいなの。だから、限られた音域と音質しか聞こえなかったんじゃないかと言われているわ」
「ふ~ん。でも、それでも一世を風靡したんだから凄いよね」
「まあね。その当時は敵になるような存在がいなかったから、多少聞こえが悪くても問題なかったのかもしれないわね。だって、今でもワニは最強の王者の一つだけど、彼らにも耳介はないからね」
「そうか……。そうだな、確かに」
ワニが狩りをしている姿を思い浮かべた新は考子の説明に納得したが、突然、耳介のあるワニを想像して笑ってしまった。
「なに笑っているの?」
「いや、なんでもない」
含み笑いをする新を不思議そうに見ていた考子だったが、話を戻すために咳払いを一つした。