赤ちゃんにお腹を蹴られた1週間後、考子はお腹を擦りながらハミングをしていた。
『クラシック子守歌メドレー』と題されたCDをかけながら、フンフンと口ずさんでいた。
 それはショパンから始まり、モーツァルトになり、ブラームスへと続いた。
 
 今日は新が当直の日なので、早めに夕食を済ませて、ソファにゴロンと横になって、このCDをかけ続けていたのだ。

胎教(たいきょう)は大事なのよね」

 独り言ちて、またハミングをし始めたが、すべての演奏が終わると、別のCDにかけ替えた。
『クラシック名曲メドレー』というタイトルのCDだった。

 バダジェフスカ作の『乙女の祈り』が始まった。
 ソファに座って聴いていた考子は目を瞑り、体をゆっくりと左右に揺らしながら、「女性が作曲しただけあって調べが優しいのよね」と頷いた。
 
 ベートーベン作の『エリーゼのために』が始まった。
 彼が40歳の頃に作曲したこの曲はとても愛らしいので、お気に入りリストの上位に入っている。
「力強いベートーベンもいいけど、この優しいベートーベンが一番好き」と微笑んだ。
 
 曲が変わると、思わずウットリとした声が出た。
「なんて素敵な……」
 シューマン作の『トロイメライ』だった。
 優しいタッチで弾かれるピアノの音が考子を夢想の世界へ誘った。
 そして、リスト作の『愛の夢:第3番』が始まると、本当の夢の世界に入っていった。