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鼓門を抜けると、鬼火が灯る一本道。

牛の頭をしたもの、腕に百の目がくっついた女と様々だ。


「手を離すな。はぐれるからな」

浮きたつ気持ちと不安定さ。

月冴の手を握り返すのが精いっぱいだ。


「こういう場ははじめてか?」

「はい。外はこんなにも賑やかなんですね」


見たこともない大きな塊の肉や、真っ赤なリンゴの飴細工。

ふわふわした綿をパクッと飲み込んでしまう河童と、取り巻く環境につい背伸びをしてしまった。


(月冴さまは私を連れてきて、どんな目的があるの?)


繰り返す退屈な日々しか知らない小娘を連れまわすとは、月冴は相当な変わり者だろう。

余計に胸がざわついた。


「はにゃ? 月冴様がにゃぜこんなところにいるにゃ?」

知らぬ声にパッと顔をあげると、瞳孔のするどい猫又がいた。

ぺろっと唇を舐め、尻尾をゆっくりと腕に巻き付ける。

「私がいてはおかしいか?」

「名のあるあやかしが下賤の町にいるのを不思議に思っただけにゃん」

そう言って猫又は侮蔑を込めた視線を少女に投げる。


「新顔ですにゃ。同族にお優しいことにゃ~」

「そういうのを無駄口と言う。知らなかったか、猫又?」

「にゃ~、こわいにゃこわいにゃ……」


猫又は腕を擦りながらサッと俊敏に去っていった。

月冴の連れに興味を抱くあやかしは他にもおり、強い視線が少女に突き刺さる。

怯えて後ずさると、顔を隠していたお面が外れて石畳に落ちた。


「人間だ」

「月冴様が人を連れている。食いものか?」

急いでお面を拾い、顔を隠すもすでに遅い。

ギラギラした目で詰められると、少女の背にじわじわと汗がにじんだ。