出会ったときはずいぶんとしかめっ面だったが、今はいたずらを思いついた子どものような顔をしている。
大股で荒々しいと思ったが、少女をおろしてからはゆっくりと歩いてくれた。
他人に合わせることに慣れていないのだろう。
時折確かめるような目つきで少女を横目に見ていた。
(ふしぎな人。おじさんは振り返ってくれなかったのに)
比べる対象としてはいささか間違っているような気がしたが、他に比較できる人がいない。
少女をとらえた村人は、山のふもとに暮らす二人をよく思っていなかった。
最初から少女と対等に目を合わせてくれた人はいない。
ぎこちなくも強い足取りを、玉遊びのような音に変えてくれる月冴は隣にいて気持ちが高揚した。
「あやかしの町だ。その前に」
月冴は衣の袖から狐の面を取り出し、少女の顔に貼り付ける。
視界が一気に狭まり、少女は面を浮かせて月冴の顔を見上げた。
「これはなんですか?」
「この世界で人間はすぐに喰われる。その面は匂い消しだ」
あくまでここはあやかしの世界。
嫌悪を向けられるのは同じでも、食う食わないの差は大きい。
少女は面をつけると、ソワソワ身を揺らした。
月冴がおだやかに微笑むと、滑らかな手で少女の手を引いて歩き出す。
(お面をつけていてよかった。だって熱いくらいだもの)
寒さには慣れていても、人肌を知れば表情が強張ってしまう。
背を向けられるのは胸が苦しくなるので好きではない。
だからといって目の前に現実離れした美しさが現れると、触れられたくない箇所に触れられた気分になるので、ハッキリしない重さが胸を圧迫した。
(少し怖い。だけど足を止めてしまうのも怖いから)
柄のない灰桜色の着物をかきよせ、月冴と同じように下駄を鳴らして前に進んだ。