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それから十日が過ぎても月冴は顔を見せなかった。


(変なの。お腹が空くこともないなんて)

生贄として出されたが、本当はすでに死んでいるのではないか。

虚無感への向き合い方を見つけられないまま、寝ころんで畳の目を数えるくらいに暇を持て余していた。


部屋に籠もりきりだと本当に生きている心地がしないので、時折襖を開けて縁側に腰かける。

部屋から眺めることの出来る庭では、手水鉢に流れる水の音や風が木々を撫でる音がした。



静かすぎる日々を打ち破ったのはドスドスとした大きな足音。

縁側に触れた指先から感じる振動と、音の間隔。


(強い音。機嫌が悪い?)

その場に正座をして待機すれば、月冴が険しい表情をして少女の前に現れた。


(何か悪いことでもしたかな?)

機嫌の悪そうな顔に少女はボーッと首を傾げる。

ずいぶんと荒々しい足音だった月冴の足元を眺めると、上からひんやりとした手が少女の頬に触れた。

力加減を知らない手に少女は眉一つ動かさなかった。


「お前、逃げなかったのだな」


月冴の言葉に少女はキョトンとする。

「あやかしの贄にされたとわかったら怯えて逃げ出すものだろう」

何も理解しない少女に月冴の口調が荒くなった。


少女は”そういうもの”と認識し、怯えた素振りをみせる。

その人まねが月冴には不愉快だったようで、眉をひそめて睨まれてしまった。


「ここは人の生きる場所ではないんですよね? だったら逃げません」

「それは冷静に言ってか?」

「私に帰るところはありませんから。……十日も経てばさすがに知らない場所とわかります」


しょせん、養父に捨てられた生贄だ。

少女が逃げ出せば、月冴が村を滅ぼす可能性も否めない。

簡単に滅ぼすことが出来ると感じさせるほど、月冴からは圧倒的な強者のオーラが漂っていた。



少女は生贄となることに悲しさはあれど、諦めるのも早かった。

その歪さは月冴には不可解なようで、しかめっ面に少女の腕を引くと庭に出て、高下駄をカラコロと鳴らした。