「狐はもういない。お前の血が狐に勝ったんだ」


少女が狐を滅し、道を開いたあとに椿が棺を通じてやってきた。

巫女の血筋のものを送れば凶作から解放されると思っていたが、効果は見られず……。

不良品だったと判断して、再び生贄として椿が送られた。

今頃村人は凶作が解決しないと、苦難に頭を抱えているだろう。


「明日まで待て」

「明日?」


月冴が答えを出そうとしている。

それに少女は向き合おうと涙をこらえ、精一杯の微笑みを向けた。

「待ってます。私もちゃんと、逃げずにこの感情を伝えていいですか?」

「あぁ」

「怖がってたら不安は一生消えないんですね……。だから勝手に月冴さまを信じることにします」

「不安は明日には消える。私は答えをみせる。だからお前ももう負けるな」


それ以上の言葉は必要なかった。

空っぽな少女から、月冴と向き合える立派な自分になりたい。

キモチワルイなんて思わなくて済むようにと、隠せない想いを乗せて背伸びをする。


月冴の薄い唇に同じものを重ね、頬が熱いなのか、月冴の手が熱いのかわからないと温度を探る。

湿った感覚は唇だけではまだ物足りないが、伝えるのは後回しにしよう。

胸の高鳴りとわずかな緊張に挟まれ、奇妙な感覚を味わった。


「お前は私の傍にいればよい」

「……っはい」

その日、はじめて月冴の腕の中で眠った。

膝枕をしたこともあったが、その晩は月冴が甘やかす番となり、心地良さに月冴の膝を独占した。

暗闇は好いた人とならば安息になると、背中ではなく月冴の顔を見ておだやかな夢を見た。