「ごめんなさい。別にあなたを泣かせたいわけじゃないのよ」

「うっ……ごめ、なさ……」

どうして肝心なときに声が詰まるのだろう。

前向きになりたいと思っているくせに、心とは裏腹に泣いてばかりだ。

それも言い聞かせでしかないのだから、本気で前向きになろうとしていなかった。

情けなさに吐き気がした。


「あの方を愛してるのね」


椿は切なく微笑んで少女の手を掴む。

少女はハッとして顔をあげると、以前の椿のような人に寄り添うあたたかさを感じられた。


「愛するって難しいと思うの。自分が嫌いだと相手の気持ちに疑いをもってしまうわよね」

「……月冴さまはずっと一人だったと言われました。もし、先に来ていたのが私じゃなくて椿さんだったら……。私である必要はなかった」


言わずにはいられない。

八つ当たりでしかない。

それでもこれ以上、欲を隠せば変われないことに気づいていた。


「月冴さまの一番はゆずりたくない! 足りないものはちゃんと埋めたい! もう振り向いてくれない背中を見たくないんです!!」


喉の蓋をこじ開けてあふれた本音。

これをぶつけた相手が椿というのも皮肉なことだ。


泥を投げられる村で、汚れを気にせずに手を差しのべてくれた人。


可憐な花は濃い桃色だったのに、今は真っ赤な花びらだ。

中心の黄色は花びらの色で見え方が変わり、少女の目には憧れの色をしていた。