「きゃっ!?」


突如、月冴は少女の腕を引っ張り、少女の身体を抱き寄せて腕枕をする。


「どうしてこんなことを願った?」


どうしてだろう――と考えて少女は吐き気のする欲を喉から押し出した。


「母親ってこんな感じかなと」

「母親?」

「私は母を知らないのです。顔を覚えるより先に両親は亡くなったそうですから。月冴さまはとても美しいので……その」


奇妙な欲だ。

こんなのは絶対に変だと少女は口ごもり、チラチラと月冴に視線を送った。


「男性とは思えないといいますか……」

消え入りそうな声で呟くと、月冴は目を見開き、眉をひそめた。


「それはずいぶんと舐められたものだ」

「ふぁっ……?」

月冴が少女の頬を摘む。

不意打ちに少女の口から間抜けた息が吹き出た。

顔にすべての熱が集まったかのようだ。

混乱してアタフタしていると、月冴が「ぷっ」と吹きだしてそのまま少女の頬をいじくった。


このイタズラは嫌ではない。

月明かりなんて目もくれず、銀色の光の粒の方がずっとずっと見ていたい。

うっとりしていると、口角がゆるくなった。


(月冴さまはあたたかい。私はどんな温度をしているのかな)


夢見心地と、ときどき突然目が覚めるような現実。

もう少しで答えにたどり着きそうな気がした。

前が見えないことは足元が見えないのと同義だが、月冴といれば歩けるかもしれない。


勇気。

不安でいっぱいだけど、月冴の背中を追うだけでなく、隣に並べたらと想いが強くなった。