「ふはぁ〜! 生き返る!」
「河童って大変なんですねぇ」
「夏は乾くし冬は凍るし、生きにくい世の中だよ全く!」
カラカラと笑ったおじさんは、「おお、あそこだ」と設営中の屋台に私を引き入れた。
このおじさんは人ではない。隣の屋台のお姉さんも向かいの屋台のお兄さんもだ。彼らは皆夜に住み、人の理解を超えた摩訶不思議な存在。
私たちはそんな彼らを妖と呼んでいる。
このほだかの社は、人だけでなくこの現世に住む妖達も守り慈しみ導く場所だ。
「巫寿! ちょっと来てくれ!」
社務所からそんな声がして振り向くと、禄輪さんが私に向かって大きく手を振っている。
河童のおじさんに断りを入れて「はぁい」と手を振り返した。
小走りで駆け寄ると社務所の中へ促された。大人しく中へはいると、見慣れない顔が数人増えていることに気が付く。
アルバイトを始めた時に、ほだかの社の神職さま達には挨拶をしたのでおそらく禄輪さんのお客様だろう。
どの人も白衣に袴を身につけた装いなので、間違いなくどこかの社の神職さまだ。
「祭りが終わるまで運営を手伝ってくれる人達だ。困ったことがあったらこいつらに丸投げするといい」
丸投げって。
思わず苦笑いをうかべる。
神職さまたちが身につけているのは紫に白の紋様が描かれた袴、間違いなく高位の神職さまだ。そんなふうにぞんざいに扱えるわけがない。