「金糸雀は周囲の環境で簡単に健康を害して死んでしまう鳥だ。体の頑丈さが売りの鷹宮からすれば、呪詛程度でそこまで弱ってしまうとは思わなかったのかもしれないが。今まで……辛かっただろう?」
体が弱い自分が当たり前だったが、苦しくなかったと言えば嘘になる。一人高熱にうなされながら、自室の竿縁天井をぼんやり見つめ続けた時間は……孤独で、寂しくて、苦しかった。
ただ鷹宮に相応しくない印を魂に刻んで生まれただけで、十九年間も意図的に私の健康が奪われてきたのであれば──
「──贄になるのは受け入れますが、普通に歌える程度には元気でいたかったです」
こんな時まで歌っていたかったと考えてしまうのは、私が金糸雀だからだろうか?
苦笑いで誤魔化した私を、志成様はギュッと抱きしめる。呪詛をかけられていたのは私のはずなのに、彼の表情は私より苦しげだった。
「俺は和音の歌に命救われた。だから今度は俺が助けてやらねばと婚姻を望んだのだ。これで妹の方を寄越される流れになれば何かと文句をつけて和音に変更させるつもりだったが、鷹宮は狙い通り和音を寄越してくれた。……よかった、呪詛を解いてやることができて」
誰かに抱きしめられたことなど、ほとんどない。初めて出会ったあの夜は後ろから抱きつかれてあんなに怖かったのに、正面から抱きしめられている今は……怖くない。それはきっと、志成様は私を害するような人ではないと分かったからだ。
「助けていただいて、ありがとうございます。志成様のおかげで、贄となる日までは楽しく歌って過ごせそうです。このご恩は、鷹宮に戻っても……いいえ、来世になっても忘れません」
私を抱きしめていた志成様が、ピシッと固まったような気がした。
「……ちょっと待て。和音? この流れでどうしてそうなる。どうして鷹宮に戻るつもりでいるんだ……!?」
「だって志成様は、私が歌で治療したお返しに呪詛を解いてくれたのですよね? それが済めば、そもそも私は志成様には不必要。どうぞ離縁状を突きつけてください」
本当に志成様には心から感謝している。だって私と会い呪詛を解くために、結婚という手段を取ってくれたのだから。
「……分かった。通じ合えないのであれば、はっきり言うことにしよう。俺は和音を鷹宮には帰さないし、贄にもさせない。離縁なんてもっての外。そう簡単にこの屋敷から出られると思うな」
「そんな、困ります!」
「それは和音が困るのではなく、鷹宮が困るのだろう? 烏は仲間意識の高い鳥。一族の誰しもが、俺の妻である和音を仲間だと思っている。それを贄に出すなんて知れば怒りに狂うだろうし……当主が愛する妻を贄にしようとする鷹宮なんて、一族総出で潰しにかかる」
「あ、愛する……妻!?」
あまりの衝撃で、幻聴かと思ったが。ただ抱きしめられていただけのはずなのに、徐々に彼の纏う雰囲気は甘くなり。いつの間にか髪に何度も唇が寄せられる。まるで鳥が求愛行動で羽繕いするかのように。
いくら男性に免疫の無い私といえども、ここまでされて気が付かぬ訳がない。
「あの清らかな歌声の虜になった。一生俺の側で歌って生きて欲しい」
「ちょ、ちょっと待ってください。私は体が弱くて……」
「だから呪詛を力業で解いてやったじゃないか。生活環境を整えてやれば、恐らく和音は健康に暮らせる」
「でも、鷹宮には私以外贄になる人間が……」
「分かった。それほど心配なら、贄の件も俺が解決してやる。恐らく……なんとかなるはずだ。安心して俺の元で暮らすといい」
そこまで言われてしまえば、申し訳無さはあれども……志成様を拒否する理由が無い。黙った私を見た志成様は微笑みを携えて私の唇を奪う。
「だからこれからは、俺だけの為に鳴く金糸雀になってくれ」
体が弱い自分が当たり前だったが、苦しくなかったと言えば嘘になる。一人高熱にうなされながら、自室の竿縁天井をぼんやり見つめ続けた時間は……孤独で、寂しくて、苦しかった。
ただ鷹宮に相応しくない印を魂に刻んで生まれただけで、十九年間も意図的に私の健康が奪われてきたのであれば──
「──贄になるのは受け入れますが、普通に歌える程度には元気でいたかったです」
こんな時まで歌っていたかったと考えてしまうのは、私が金糸雀だからだろうか?
苦笑いで誤魔化した私を、志成様はギュッと抱きしめる。呪詛をかけられていたのは私のはずなのに、彼の表情は私より苦しげだった。
「俺は和音の歌に命救われた。だから今度は俺が助けてやらねばと婚姻を望んだのだ。これで妹の方を寄越される流れになれば何かと文句をつけて和音に変更させるつもりだったが、鷹宮は狙い通り和音を寄越してくれた。……よかった、呪詛を解いてやることができて」
誰かに抱きしめられたことなど、ほとんどない。初めて出会ったあの夜は後ろから抱きつかれてあんなに怖かったのに、正面から抱きしめられている今は……怖くない。それはきっと、志成様は私を害するような人ではないと分かったからだ。
「助けていただいて、ありがとうございます。志成様のおかげで、贄となる日までは楽しく歌って過ごせそうです。このご恩は、鷹宮に戻っても……いいえ、来世になっても忘れません」
私を抱きしめていた志成様が、ピシッと固まったような気がした。
「……ちょっと待て。和音? この流れでどうしてそうなる。どうして鷹宮に戻るつもりでいるんだ……!?」
「だって志成様は、私が歌で治療したお返しに呪詛を解いてくれたのですよね? それが済めば、そもそも私は志成様には不必要。どうぞ離縁状を突きつけてください」
本当に志成様には心から感謝している。だって私と会い呪詛を解くために、結婚という手段を取ってくれたのだから。
「……分かった。通じ合えないのであれば、はっきり言うことにしよう。俺は和音を鷹宮には帰さないし、贄にもさせない。離縁なんてもっての外。そう簡単にこの屋敷から出られると思うな」
「そんな、困ります!」
「それは和音が困るのではなく、鷹宮が困るのだろう? 烏は仲間意識の高い鳥。一族の誰しもが、俺の妻である和音を仲間だと思っている。それを贄に出すなんて知れば怒りに狂うだろうし……当主が愛する妻を贄にしようとする鷹宮なんて、一族総出で潰しにかかる」
「あ、愛する……妻!?」
あまりの衝撃で、幻聴かと思ったが。ただ抱きしめられていただけのはずなのに、徐々に彼の纏う雰囲気は甘くなり。いつの間にか髪に何度も唇が寄せられる。まるで鳥が求愛行動で羽繕いするかのように。
いくら男性に免疫の無い私といえども、ここまでされて気が付かぬ訳がない。
「あの清らかな歌声の虜になった。一生俺の側で歌って生きて欲しい」
「ちょ、ちょっと待ってください。私は体が弱くて……」
「だから呪詛を力業で解いてやったじゃないか。生活環境を整えてやれば、恐らく和音は健康に暮らせる」
「でも、鷹宮には私以外贄になる人間が……」
「分かった。それほど心配なら、贄の件も俺が解決してやる。恐らく……なんとかなるはずだ。安心して俺の元で暮らすといい」
そこまで言われてしまえば、申し訳無さはあれども……志成様を拒否する理由が無い。黙った私を見た志成様は微笑みを携えて私の唇を奪う。
「だからこれからは、俺だけの為に鳴く金糸雀になってくれ」