鷹宮のお父様は、茜は厳重に管理・処分すると帝に約束した上で、四大名家の名と貴族としての位を返上した。……起こした騒ぎの大きさを考えれば当然の報いかもしれないが。それでも……少しだけ可哀想だと思ってしまったのは、私が彼らと一応「家族」という形で暮らしていたせいだろうか。

「本当に和音は人が良いな。自分を苦しめてきた奴らなんて、どうなっても知ったことではないだろうに。俺ならば、ざまあ見ろ地獄に堕ちやがれと思うが」

 胡座をかいて座った志成様の腕の中で、はらりと舞い落ちる雪を見上げる。……もうすぐ、本来の贄の期限。志成様と初めて会った冬から一年だ。私は一年前には想像も出来なかった幸せの温かみの中に居る。
 でもそれは……本当に不貞の子だった私を、鷹宮のお父様が生かしてくれたから。呪詛を掛け贄としてであっても命は奪わずにいてくれたから、今がある。

「だって私はあの環境で育ったからこそ、志成様との今を手に入れたのです。苦しかった日々も志成様へ続く道だったのだと思えば、何ともありません」
「その発想は、あの鷹宮で育ったからこそだな。俺はずっと、か弱い金糸雀を鳥籠に閉じ込めて大切に飼ってやらねばと思っていたが。……意外と強いからな、和音は。怒らせると、勝てる気がしない」

 大事な羽織は切り刻まれるし……と、嫉妬に駆られた件を持ち出されるので「また縫いますから許してください」と謝罪する。

「許さない。だってあれは和音が初めてくれた贈り物だったんだぞ。だから、そうだな……お詫びに、毎週俺と逢引きに出掛けてくれ」
「歌ではなくて、逢引き? そんなもので許していただけるのですか?」

 と思ったが。そういえば志成様は、私が街歩きする様子を見て快感を覚える程だったのを思い出して、押し黙った。

「そんなもの? あれ程可愛らしい姿を、そんなもの扱いしないで欲しい」

 だんまりを無言の肯定と捉えた志成様は嬉しそうに私の唇を奪う。そして楽しげに、次は劇場に行こうかなどと話し始めたので、私も釣られて笑ってしまった。

「好奇心で輝く瞳と弾む歌声を独り占めする甘美な役割を、俺だけのものにできるのなら。……それは十分すぎる程のお詫びだよ」

 鳥籠に囲うのではなくて、その腕で金糸雀を囲い連れ回す男の話が有名になり私の耳に入るのは……もう少し後の話。