志成様との逢引は、弟妹のせいで強制的に終了となった。

「本当に申し訳ございませんでした。せっかく志成様が誘ってくれたのに……何かお詫びをさせてください」

 暁烏の屋敷に戻った私は、自室で深々と志成様に頭を下げる。そんな私を見て志成様は気まずそうに眉尻を下げた。

「気にしないでくれ。和音の側から離れた俺も悪かったのだから」
「悪くありません。それに志成様は、私が助けを求めればすぐに来てくださったもの」
「和音が俺を呼ぶから何事かと思ったら、鷹に襲われ帯を解かれていたんだ。よくあの場で正行に手を上げなかったものだ。自分の理性を褒めてやりたい」

 帯を解いたのは私自身なのだが、それで志成様に衝撃を与えてしまったのには変わりない。

「……でも、よく私の声が聞こえましたね?」
「烏は番を大切にする種だ。一緒に巣を作り、子を育て、死が二羽を分つまで共に生きる。俺は八咫烏だが、烏には違いないから。大切な番の声が聞こえないなど、有り得ない」

 そこまで言われると、何だか恥ずかしいような気持ちになってくる。思わず視線を逸らした私の手をそっと握った志成様は、真剣な表情で「では、お詫びではないが和音に頼みたいことがある」と話し出した。

「重大な案件ですか?」
「暫く仕事が大変忙しくなる。贄の件で対策を話し合っていて、それに加えて軍の仕事に当主としての仕事。屋敷に戻れない夜もあるかもしれない。それでも俺は和音だけを愛していて、いつも想っているのだと信じて欲しい。あと俺が居なくても、毎夜歌って欲しい」
「……? はい。わかりました」

 仕事ならば仕方のないことだ。しかも贄の件は私が原因であるし、申し訳なさを感じることはあれども、特に何も思うことはない。

「フッ……分かっていないような顔だな」
「分かってます。志成様がお忙しくても、私はいつも通りこのお屋敷でお戻りをお待ちしてますから。でも、志成様が居ない時でも歌う理由をお伺いしても?」
「……愛する妻の歌声が聞こえると、辛い仕事でも頑張れるから、かな」