わたくしの生活は今までとそう変わりません。

 変わったことといえば、食事を正成様と取るようになったことでしょうか。


 「寧々は今日、何か予定あるのか?」

 「いえ。特には」


 城の中で山紫国の情報を集めようと思います。

 他国から嫁いだ女は実家の刺客。

 集めた情報を実家に送っています。


 「城の中で何もせずゆっくりとくつろぐなんて、苦労知らずだな。こちらは必死だというのに」


 どうやら、嫌みと思われたみたいですね。

 わたくしはゆっくりとくつろぐようなことはしませんが、そう思われているようですね。

 ざわつく心を抑え込んでわたくしは聞きます。


 「正成様は必死に何をするのですか?」

 「畑仕事だ。少しでも備蓄を上げないとだからな」


 嫡男自ら農作業をする現状......。

 この国の様子で不作であり、食べ物がないことは分かっていましたが、正成様までしないといけないとは......。

 思っていたより状況は悪いですね。


 「わたくしも手伝いますよ」


 その言葉に正成様は虚を突く攻撃をされたみたいで、口が閉じました。

 それほど驚くことだったでしょうか?


 「......できるのか?」

 「一通りですけどね。城の一角で庭園を作っていましたから」


 城から出られなかったわたくしが退屈しのぎで作った物です。


 「動きやすい恰好で下に来てくれ」

 「かしこまりました」



 朝食後、わたくしは長刀の鍛錬で着ている袴に着替えて、外に出ると庭の半分ほどが畑になっていました。

 よく許可がでましたね。

 わたくしが庭園を作る時、庭師からここまでと強くお願いされましたから。


 「寧々、あっちの庭を耕してくれ」

 「あちらの庭を壊して良いのですか?」


 わたくしを見つけた正成様は早速指示を出しましたが、正成様が差した方向には美しい庭園が広がっていました。

 本当に壊しても良いのでしょうか?


 「父上からの許可は取ってある。今は国の一大事だ。庭よりも民の命の方が重要だ」


 正成様の言葉にはこの国で暮らす人の生活が込められているんですね。

 国のために尽力する姿にわたくしは正成様の評価を訂正いたしました。

 遠くから見るとわたくしが見たことあるものとさほど変わりませんが、近づくにつれて植えられている枯れている植物が観察できるようになります。

 先日雨が降ったのでしょうか。ところどころに水たまりがありました。


 「水はけが悪いのは改善しないといけませんね」


 水はけが悪いと根が腐ったり、枯れたりします。

 排水溝を作る必要がありそうですね。


 「寧々様、それにこちらは砂が大半を占めているようです」


 周辺にいる方から聞いてきたのか和葉が報告してきました。

 わたくしはしゃがんで砂を摘まむとさらさらとまとまることなく、指先から落ちました。

 砂質の土は保水力が弱いため、乾燥しやすく、肥料のもちが悪いです。


 「耕しながら、堆肥をいれないといけませんね」


 少しでも良い土になりますように。

 そんなことを願いながら、そっと触れた時でした。


 「⁈」


 わたくしから何かが放出されているようでした。

 わたくしが触れた部分から風が吹きあがり、わたくしが出したのであろう緑の光が空高く舞い上がりました。

 わたくしの髪をなびかせて衣を翻していきます。

 乾燥していた明るい茶の土が水を十分ほど蓄えている黒の土へと生まれ変わり、元気がなかった庭園に植えられている木々が大きく枝を広げて成長していきます。

 それだけではありません。

 新しい新緑の芽がどんどん育って足元は若葉色に塗られていきます。

 これが神様から与えられた力でしょうか。

 ですが、人間には耐えられない力だったようです。


 「寧々様⁈」

 「和葉、大丈夫よ」


 心配させないように大丈夫なんて言いましたが、体は悲鳴を上げています。

 全身が鉛を含んだかのように重く、体が熱くなっています。

 地面に腰を下ろしといて正解でした。

 立っていたら倒れていたでしょうから。

 両手を地面につけないとこの姿が維持できなくなってきました。


 「寧々、何があった⁈」


 異変を感じて正成様がやって来たみたいです。

 ですが、今のわたくしには答えられそうもないです。


 「申し訳ございません。後日でもよろしいでしょうか?今、知りたいのなら和葉にお願いします」


 受け答えできたでしょうか?

 もう自力では維持できないので、後ろにいる和葉に支えてもらっています。

 視界がぼんやりとしてきました。

 緑色の地面が動いたと思うとわたくしの意識はそこで無くなりました。