兄様方に呼ばれた後、すぐにわたくしはすぐに嫁ぐことになっていました。

 わたくしを乗せた籠と荷物が関所を越えて、山紫国に入りました。


 「寧々様、到着いたしました」

 「ここまでありがとうございました」


 運んで下さった方に礼をして籠から出ると、田畑が見えました。

 山紫国の使者に付いて歩いていると


 「今年もだめか......」

 「このままじゃ、来年には食べ物が尽きてしまうぞ......」

 「おっかあ、お腹減ったよ......」

 「ごめんね。今日はこれしかないの」


 暮らしている方の声が聞こえてきました。

 田んぼや畑には実がなっていますが、どれも小さく数が少ないようにも思えます。

 それほど距離が離れているわけでもないのに、これほど違うなんて......。


 「山紫国では食べ物が実らないのですか?」

 「元から土壌が悪いのです。それでも先祖代々励んできましたがここ最近はもう......。備蓄してある食べ物が一年持つか持たないかぐらいだったところに水明国から婚約の打診が来ました。それはもう本当に嬉しかったのですよ.........!水明国から食事を流通することができますから」

 「兄にも伝えときますね」


 まさかこれほど歓迎されているなんて......。

 来てすぐですが、山紫国の実態が分かってきました。

 そして水明国に戦を仕掛けてきたことも。

 食料の備蓄がなくなって一番最初に亡くなるのは農民からです。

 作り手が無くなったら町民や武士まで食べ物が無くなります。

 そこで目をつけたのがわたくし達の国でしょう。

 毎年のように黄金色の米を垂らし、肥沃な土壌で育つ野菜。

 そして大河が流れる交易地点。

 喉が出るほど欲しかったのでしょうね。

 水明国は山紫国に攻められて城は落ち、わたくしを含めた領主一族は絶命......。

 これがわたくしが知らなかった現実、ですか。

 もう二度と同じことを繰り返さないように......。わたくしの国が戦火で焼野原となることがないように......。

 神様から与えられた力で救わなければ......!


 「わたくし、山紫国を飢えさせないよう、正室として精進していきたいと思います」

 「それは期待しているぞ」


 わたくしの決心は目の前の男性に聞かれてしまいました。

 上質な着物を身にまとっているので高貴な方であることは分かりますが、どなたでしょうか?


 「俺の名は正成。兄と姉に大切に育てられたと聞いてどれほど甘えん坊な姫が来るかと思ったが、中々に威勢が良いな」


 甘えん坊ですか......。

 否定はしないですよ。

 大人の背中で現実を逸らして、仮初の平和でわたくしは育ってきましたから。

 ですが、その結果、わたくしの家族と国が何も知らないまま炎に飲み込まれました。

 全てを救うには、見たくない現実も目を逸らさずに見ないといけないのですよ、わたくしは。


 「わたくしが甘えん坊かどうかはお任せいたしますわ。はじめまして、正成様。寧々と申します。末永くよろしくお願いしますね」


 正成様は食料のため。

 わたくしは山紫国から自国を守るため。

 愛なんて存在しない利害で結ばれたわたくし達の結婚生活が始まりました。