時が流れるのは早く、過去に戻って一月が経ちました。

 葉月の終わり、わたくしは千聖兄様と千晶兄様の側近から呼ばれました。

 一人で十分ですけどね......。


 「昼間は城で働く者が出入りしているおかげでにぎやかですね」

 「ええ。姉上様方が嫁いだ寂しさを埋めるには十分です」

 「わたくしも随分とお世話になりましたから、いなくなるのは寂しいです」


 和葉はわたくしより一歳上でお姉様の話相手をしておりました。

 昼間は賑やかで人気も多いですが、夜になると閑散としています。

 お姉様方がいらっしゃったときは何もない夜も華やかでしたから......。

 寂しさを感じながら、廊下を歩いていると見えてきました。

 部屋にはすでにお兄様方が上座にいました。


 「寧々、結婚が決まった。山紫国の嫡男である正成殿だ。年は十四。そなたより一歳年上だ。寧々は正成殿の正室として嫁いでもらう」

 「これで寧々もいなくなるのか。寂しいな」

 「千晶兄様......」


 結婚が決まったことはうれしいですが、千聖兄様と千晶兄様と離れてしまうのですね......。

 分かっていても寂しいと思ってしまいます。


 「千晶、これは寧々が望んだことだ。私たちができるのは支えることしかできない」

 「千聖兄様、わたくし、この国、水明国を守ってみせます」

 「寧々。そういうのは正成殿の国である山紫国を守ると言うんだよ。こっちのことは気にするな」


 そう言いながら千聖兄様は上座から下りてわたくしの頭をそっと撫でてきました。

 いつも通りの顔でしたが、悲しそうでした。

 ......わたくしはこれほど愛されていたのですね。

 ......嫁ぐことが決まって分かるなんて、遅すぎですよ......。

 花嫁となり嫁ぐことは幸せなこと。

 だからわたくしは泣いたりなんてしません。

 わたくしはちゃんと笑えていたのでしょうか?