「そなたは憎いか?そなたを焼いた者に対して」
頭の中に言葉が浮かんできました。
真っ暗な世界で漂うわたくしに声をかけられるお方はこの方しかいません。
「神様、わたくしは憎んでいません。こうなったのも運命でしょうから」
どうしてわたくしの城が燃やされたのかは分かりません。
ですが、きっと戦で負けたのでしょう。
幼いわたくしを気遣って側仕えは口を噤んでいましたが、平穏とは無縁の世。
城と共に運命をするのが武家に生まれたわたくしの定めですから。
「今の世でこのような考えをする者がいたのか......。寧々、其方は美しい心を忘れるのではないぞ。この力を使ってを救え」
そう神様がおっしゃるのと同時に祝福が送られました。
暗闇の中、万物を照らす光がわたくしの中に入ってきます。
周囲が明るくなるのを感じてわたくしは目を開けると、
「おはようございます、寧々様」
そう言って来たのはわたくしの側仕えである和葉でした。
どういうことでしょう?
和葉はわたくしと一緒に城で落命しています。
なぜ生きているのでしょうか?
「お、寧々、起きたか」
「千晶兄様!」
わたくしは嬉しさに千晶兄様の胸に飛び込みました。
千晶兄様はある日突然いなくなってしまいました。
こうして抱き着いて千晶兄様の温もりを感じることができるのがもう二度とないと思っていましたから.........。
「千晶兄様が生きてて良かったです」
「どうやら寧々の中ではお前は死んだことになっていたらしいな」
「兄上⁈寧々、俺、死んでいないからな!」
「はい......はい......!」
千聖兄様と千晶兄様の会話も久しぶりに見ます。
半年ぶりの懐かしい光景......。
半年ぶりの光景?
疑問を感じたわたくしは聞いてみました。
「あのつかぬ事をお聞きしますが、今日はいつでしょう?」
「今日か?天正元年の文月だが......。何かあったのか?」
「いえ、なんともありませんわ、千聖兄様」
わたくしは何ともなさそうに答えましたが、内心は混乱していました。
忘れもしない落城した日は天正二年の文月。
わたくし、どうやら一年前に戻っているようですね。
千晶兄様がいて、平穏であることも納得です。
きっと極楽浄土へと向かったわたくしが一年前に戻った理由は神様から授かった力で救うため、でしょうね。
そして、一年前に戻った今なら、きっとこの国を隣国から救うこともできるでしょう。
でも女のわたくしがどのように守るのでしょう?
わたくしは千聖兄様と千晶兄様とお母様が違います。
先代領主様である父上と正室から生まれたのが千聖兄様と千晶兄様で、わたくしは父上の晩年にできた側室の娘です。
父上も母上もいないわたくしには千聖兄様や千晶兄様、他国へと嫁がれていった姉上様方に育てられました。
歳離れた末の妹であるわたくしは兄様のように国のための勉強はせず、姉上様方のようにこれといったことはございません。
そんなわたくしができる方法......。
「千聖兄様、千晶兄様。わたくしの結婚相手はまだ決まっていませんよね?」
「決まってはいないが、婚約希望の国は多くある」
姉上が嫁いでもまだ婚約希望の国があることに驚きますが、この国はそれだけ魅力的なのでしょうね。
兄様が治めるこの国は大きな川が走っているので交易の地点となっています。
それに農業に適しているのか、米や野菜の収穫量は他国を追を許さないほどです。
「寧々もそんな年か......。兄上、寧々まで他国へと嫁がせるのですか?」
「この国は安定している。寧々には他国へと嫁いで他国との同盟を強くしておいた方が良い」
「その国はわたくしが選ぶことはできますか?」
「寧々が?まあ希望は聞こう」
女であるわたくしができる方法。
それは政略結婚の駒となることです。
お互いの一族が掛けられている政略結婚は紙切れ一枚の同盟よりも強いのでそう簡単に切れたりしません。
わたくしが隣国に嫁いで同盟関係となれば、攻められる心配は減ります。
もう二度とわたくしは失いたくないのです。
そのためなら、わたくしは行こうと思います。
ですが、決意しても言葉が出ません。
隣国と言うだけですよ。簡単じゃないですか。
そう鼓舞してようやく
「り、隣国に嫁ぎたいです」
伝えることができました。
こうでもしないとできないだなんて、これからが不安になってきます。
わたくしの不安は二人には知られていないようで、話は弾んでいきます。
「隣国というと山紫か」
「そこからは文が届いていないが、俺は同盟を結ぶのは良いと思う。隣国の関係は良好の方が良いから」
「確かにな。もう少し考えてから」
「それだと遅いです。なるべく早くにお願いします」
今から半年後に千晶兄様は行方不明になって、一年後にはその国から攻められて落とされるのですよ。
これから起こることを申したいですが、わたくしが未来から来たのは伝えない方が良いでしょうね。
荒唐無稽な夢物語を話す姫と後ろ指を指されて、わたくしのことを降ろそうとしてくる者が現れます。
そんなことで国を治める兄様方に余計な負担をかけたくありません。
「そんなに行きたいのなら、送るだけ送ろう。ただし、相手から断れることも考えておけ」
「分かっています」
後日、千聖兄様が送った書に山紫国から返事が届きました。
頭の中に言葉が浮かんできました。
真っ暗な世界で漂うわたくしに声をかけられるお方はこの方しかいません。
「神様、わたくしは憎んでいません。こうなったのも運命でしょうから」
どうしてわたくしの城が燃やされたのかは分かりません。
ですが、きっと戦で負けたのでしょう。
幼いわたくしを気遣って側仕えは口を噤んでいましたが、平穏とは無縁の世。
城と共に運命をするのが武家に生まれたわたくしの定めですから。
「今の世でこのような考えをする者がいたのか......。寧々、其方は美しい心を忘れるのではないぞ。この力を使ってを救え」
そう神様がおっしゃるのと同時に祝福が送られました。
暗闇の中、万物を照らす光がわたくしの中に入ってきます。
周囲が明るくなるのを感じてわたくしは目を開けると、
「おはようございます、寧々様」
そう言って来たのはわたくしの側仕えである和葉でした。
どういうことでしょう?
和葉はわたくしと一緒に城で落命しています。
なぜ生きているのでしょうか?
「お、寧々、起きたか」
「千晶兄様!」
わたくしは嬉しさに千晶兄様の胸に飛び込みました。
千晶兄様はある日突然いなくなってしまいました。
こうして抱き着いて千晶兄様の温もりを感じることができるのがもう二度とないと思っていましたから.........。
「千晶兄様が生きてて良かったです」
「どうやら寧々の中ではお前は死んだことになっていたらしいな」
「兄上⁈寧々、俺、死んでいないからな!」
「はい......はい......!」
千聖兄様と千晶兄様の会話も久しぶりに見ます。
半年ぶりの懐かしい光景......。
半年ぶりの光景?
疑問を感じたわたくしは聞いてみました。
「あのつかぬ事をお聞きしますが、今日はいつでしょう?」
「今日か?天正元年の文月だが......。何かあったのか?」
「いえ、なんともありませんわ、千聖兄様」
わたくしは何ともなさそうに答えましたが、内心は混乱していました。
忘れもしない落城した日は天正二年の文月。
わたくし、どうやら一年前に戻っているようですね。
千晶兄様がいて、平穏であることも納得です。
きっと極楽浄土へと向かったわたくしが一年前に戻った理由は神様から授かった力で救うため、でしょうね。
そして、一年前に戻った今なら、きっとこの国を隣国から救うこともできるでしょう。
でも女のわたくしがどのように守るのでしょう?
わたくしは千聖兄様と千晶兄様とお母様が違います。
先代領主様である父上と正室から生まれたのが千聖兄様と千晶兄様で、わたくしは父上の晩年にできた側室の娘です。
父上も母上もいないわたくしには千聖兄様や千晶兄様、他国へと嫁がれていった姉上様方に育てられました。
歳離れた末の妹であるわたくしは兄様のように国のための勉強はせず、姉上様方のようにこれといったことはございません。
そんなわたくしができる方法......。
「千聖兄様、千晶兄様。わたくしの結婚相手はまだ決まっていませんよね?」
「決まってはいないが、婚約希望の国は多くある」
姉上が嫁いでもまだ婚約希望の国があることに驚きますが、この国はそれだけ魅力的なのでしょうね。
兄様が治めるこの国は大きな川が走っているので交易の地点となっています。
それに農業に適しているのか、米や野菜の収穫量は他国を追を許さないほどです。
「寧々もそんな年か......。兄上、寧々まで他国へと嫁がせるのですか?」
「この国は安定している。寧々には他国へと嫁いで他国との同盟を強くしておいた方が良い」
「その国はわたくしが選ぶことはできますか?」
「寧々が?まあ希望は聞こう」
女であるわたくしができる方法。
それは政略結婚の駒となることです。
お互いの一族が掛けられている政略結婚は紙切れ一枚の同盟よりも強いのでそう簡単に切れたりしません。
わたくしが隣国に嫁いで同盟関係となれば、攻められる心配は減ります。
もう二度とわたくしは失いたくないのです。
そのためなら、わたくしは行こうと思います。
ですが、決意しても言葉が出ません。
隣国と言うだけですよ。簡単じゃないですか。
そう鼓舞してようやく
「り、隣国に嫁ぎたいです」
伝えることができました。
こうでもしないとできないだなんて、これからが不安になってきます。
わたくしの不安は二人には知られていないようで、話は弾んでいきます。
「隣国というと山紫か」
「そこからは文が届いていないが、俺は同盟を結ぶのは良いと思う。隣国の関係は良好の方が良いから」
「確かにな。もう少し考えてから」
「それだと遅いです。なるべく早くにお願いします」
今から半年後に千晶兄様は行方不明になって、一年後にはその国から攻められて落とされるのですよ。
これから起こることを申したいですが、わたくしが未来から来たのは伝えない方が良いでしょうね。
荒唐無稽な夢物語を話す姫と後ろ指を指されて、わたくしのことを降ろそうとしてくる者が現れます。
そんなことで国を治める兄様方に余計な負担をかけたくありません。
「そんなに行きたいのなら、送るだけ送ろう。ただし、相手から断れることも考えておけ」
「分かっています」
後日、千聖兄様が送った書に山紫国から返事が届きました。