ドクドクと心臓の鼓動が早まる。
幼い頃からあやかしを見てきた紫乃だが、高位のあやかしと会うのはこれがはじめてだった。
「嵐果、さん?」
「ああ、そうだ。弦治の孫、お前の名は?」
名をくり返すと、逆に問われる。相手が名乗ったのだから、確かにこちらも名乗るのが礼儀だろう。
緊張で僅かに震えながらだったが、紫乃は求められるままに答えた。
「私は、和泉紫乃です。……それで、私になんの用ですか?」
「それは――」
「テングがシノになんのようだ! シノをキズつけたらゆるさないぞ!」
緊張感が漂う中話を進めようとしたが、突然カガミが割り込んできた。
小型犬のようにキャンキャンと吠えるカガミは可愛いが、正直今はうるさい。
話が終わるまでちょっと黙っていて欲しい、と途方に暮れるような思いになる紫乃だったが、嵐果は軽く瞬きした後屈んでカガミの首根っこをつまみ上げた。
「なんだお前は? あやかしが人を傷つける訳がないだろう? むしろお前のような中級が現世にいる方が災いだろうが、上位のあやかし以外は現世へ渡ってはならないと言われているのを知らないわけではないだろう?」
つまみ上げられ、ジタバタと暴れていたカガミだったが嵐果の言葉にどんどん大人しくなっていく。
「そんなこといったって……オレたちはヒトがすきなんだ。なんであいにきちゃダメなんだ?」
「あやかしが人を好きでも、人はあやかしが見えない。そのせいで苦しむことになるのはあやかしの方だ。その苦しみが蓄積されて厄災となって人を傷つけたら元も子もないだろう?」
正論を突かれたカガミは、手足をぶらぶらさせシュンと落ち込んでしまった。
そんな様子を見ているうちに、紫乃は心臓の鼓動が落ち着いてきているのを感じた。うるさいとは思ったが、騒ぐカガミを淡々と言葉で落ち着かせた嵐果はそれほど恐ろしい存在には見えない。
なにより彼は「あやかしが人を傷つけることはない」とハッキリ口にした。その自然さに、嘘はないのだと理解する。高位のあやかしも、カガミほど表には出さないが人が好きなのだろうと安堵した。
(それにしても、あやかしは人に認知されない苦しみが蓄積されて厄災になる、なんて……)
これまでに見たあやかしたちの様子で予測はしていたが、本当にそれだけで厄災となってしまうのか、と紫乃はなんとも複雑な心境になった。
「みんなが、あやかしの姿を視ることが出来ればいいのに……」
つい、呟いた。
あやかしが厄災となる経緯を知り、蓄積されていた思いが言葉として出てしまったのだ。
皆が視えれば、あやかしが本当は人を好きだということも知れ渡る。あやかしも、認知されず苦しみ厄災となってしまうことを防げる。
見鬼の力がある者は門の贄となるという問題はあるが、多くの者が視えればいいのにということはずっと思っていたことだった。
だが、そんな紫乃の言葉と思いは聞き留めた嵐果によって否定される。
「いや、視えるようになってもらっては困る」
「え?」
驚き顔を上げて見えた嵐果は、厳しさすら感じる真剣な様子で紫乃を見ている。
「あやかしは純粋だ。それは低級であるほど顕著だ。だが人は時に嘘をつき、だまし、傷つける。人にあやかしが視えたら、あやかしたちは今以上に傷つけられるだろう」
「そんな、こと……」
実際になってみなければわからないだろう、と思ったが、嵐果はまるでそうなるのがわかっているかのような顔をする。その自信を感じ、紫乃はまたうつむき言葉を失った。
人通りが多くなってきた道で数拍黙り込んでしまうと、嵐果が「あー」と気まずげに声を上げる。
「こんな話をするために声を掛けたわけではないんだ。弦治の孫――紫乃と言ったか?」
「あ、はい」
名を呼ばれ、紫乃は意識を切り替え顔を上げた。すると少々幼くも見える嵐果の困り笑顔が視界に入る。
「俺はお前が持っている琥珀の対となる物を探しているんだ。紫乃、お前にはそれを探し出すために協力してもらいたい」
何故、自分が琥珀を持っているとわかったのだろう? そして何故、ついさっきはじめて会ったばかりのあやかしに協力をしなければならないのだろうか?
納得できない部分があるというのに、なぜか口を突いたのは拒否の言葉ではなかった。
「協力って、なにを……?」
「それは道中話そう。こんな人通りの多い場所で話すことではない」
嵐果の言葉に周囲を改めて見回した紫乃は、それもそうだなと思いうなずいた。
***
まずは移動しようということで、紫乃はそのまま当初の目的通り祖父の書庫へと向かった。
予定外に嵐果と出会ってしまったため、本来なら書庫に向かう時間はもうない。だが、嵐果の話が気になった。
今から書庫に向かうことで学校には間に合わないだろうが、紫乃が登校しなかったとしても誰も騒がない。学校側も、見鬼の力を持ちあと一年でいなくなってしまうのがわかっている紫乃に干渉してくることはあまりなく、このまま休んだところでなんの問題もないだろう。
とはいえ家に連絡が行ってしまう可能性はある。電話が来たところで両親はわかりましたとだけ答え自分を探しもしないだろうが、面倒なことが起こっても困るので念のため学校には休むと連絡を入れた。
電話を終え、スマホをバッグに仕舞うと紫乃は隣を歩く嵐果を見上げる。
恐ろしさすら感じる美しさを持つ嵐果だが、カガミとのやり取りで彼の素のようなものも見たからか親しみやすさを感じている。少なくとも、彼の姿を見た瞬間の恐れ多いというような感覚はほとんどなくなっていた。
ちなみにカガミは嵐果の用事とは関係ないので共にいる必要はないのだが、紫乃とまだ一緒にいたいというので今も紫乃の後ろをトテトテと付いてきている。
「連絡は終わったか?」
「あ、はい」
学校への連絡を終えるのを待っていてくれた嵐果に頷いて返事をすると、彼はまず自分の用件を説明してくれた。
「お前の持つ弦治の形見の琥珀。その対になっている物を探しているというのは話したな」
「はい」
相槌を打ちながら続けて聞いた話によると、その対になっている物は幽世の山岳地帯を統べていた大天狗の遺産を得る鍵になるのだそうだ。
大天狗の孫である嵐果は、その遺産を得るために奔走しているのだという。
一通り話しを聞き、紫乃は真っ先に思った疑問を口にする。
「話はわかりました。けれど、何故その鍵と対になる物が祖父の琥珀だと? 大天狗と祖父は何か繋がりがあるんですか?」
まるで接点が見つからず、どうしてなのか本当に不思議だった。
だが、その答えはすぐに知らされる。
「ああ、大天狗と弦治は相棒と言えるような仲だったらしい」
「へ?」
あまりに予想外の答えに紫乃は目を見開いたまま固まってしまう。
人とあやかしが相棒など、どういった経緯でそんなことになったのか……。
だが、続けて知らされたその疑問の答えはさらに驚きのもだった。
「不思議か? だが弦治も紫乃と同じく見鬼の力を持っていた。あやかしを視て、それらに関わってきていたのならある意味必然だろうよ」
「っ!?」
あまりの驚きに、紫乃の呼吸がしばらく止まった。限界まで開かれた目で嵐果を見つめる。
何度も開け閉めした口から、紫乃はやっとの事で言葉を紡いだ。
「どう、して? 見鬼の力を持っていたのなら、十八で門に喰われてしまうんじゃないの? おじいちゃんは、子供も孫も出来て、七十九まで生きていたのよ?」
指先まで身体が震える。
信じられない、嘘だとしか思えない。
だというのに、嵐果は顔色も変えず紫乃を見る。そしてその長い人差し指で紫乃の胸元にある琥珀のペンダントを指した。
「その琥珀に力を移したのだろう? どうやったのかは知らないが、その琥珀には弦治の見鬼の力が封じられている」
紫乃にはわからないが、この琥珀に弦治の見鬼の力が封じられていることは高位のあやかしである嵐果にはわかるようだ。嵐果は琥珀に封じられた見鬼の力を辿って、紫乃を見つけたのだと教えてくれる。
(本当、なの?)
見鬼の力を持つ者は門の贄となる。それはどうしようもないことで、変えられない未来だと諦めてきた。
だが、祖父は変えたのだ。どうやったのかまではわからないが、琥珀のペンダントに力を移すという方法で。
いずれ死ぬ運命だからと、色々なことを諦めてきた。
夢も、友人も、家族も……。
今更生きる術を見つけても、もう手遅れになっているものもあるだろう。
紫乃の中で、様々な感情が渦巻く。
一度目を閉じ、荒ぶる感情から特に強いものをすくい上げた。
色んな思いはあるが、一番に思うことはただ一つ。
諦め、奥底に眠らせていたその思いは――。
(私は、もっと生きたい!)
渇望するほどの思いに紫乃は目蓋を上げた。
丁度、祖父の書庫へと着いたところだ。
紫乃は、書庫兼祖父の書斎でもあったその建物の鍵を開け、嵐果を見る。
「嵐果さん、あなたの捜し物を見つける手伝いはするわ。だから、その話を詳しく教えてください」
強い意志を宿した琥珀色の瞳を真っ直ぐ嵐果に向けた。
その眼差しを受けた嵐果は、黒耀の目を軽く見開いた後、とても楽しそうな男らしい笑みを浮かべる。
「嵐果でいい。敬語もいらない。……今から俺たちは、パートナーだ」
そう言って自分の願いを聞き届けてくれた嵐果を、紫乃は祖父の書庫へと招き入れた。
――このときの嵐果の『パートナー』という言葉の意味を知るのは、もう少し後の話。
END
幼い頃からあやかしを見てきた紫乃だが、高位のあやかしと会うのはこれがはじめてだった。
「嵐果、さん?」
「ああ、そうだ。弦治の孫、お前の名は?」
名をくり返すと、逆に問われる。相手が名乗ったのだから、確かにこちらも名乗るのが礼儀だろう。
緊張で僅かに震えながらだったが、紫乃は求められるままに答えた。
「私は、和泉紫乃です。……それで、私になんの用ですか?」
「それは――」
「テングがシノになんのようだ! シノをキズつけたらゆるさないぞ!」
緊張感が漂う中話を進めようとしたが、突然カガミが割り込んできた。
小型犬のようにキャンキャンと吠えるカガミは可愛いが、正直今はうるさい。
話が終わるまでちょっと黙っていて欲しい、と途方に暮れるような思いになる紫乃だったが、嵐果は軽く瞬きした後屈んでカガミの首根っこをつまみ上げた。
「なんだお前は? あやかしが人を傷つける訳がないだろう? むしろお前のような中級が現世にいる方が災いだろうが、上位のあやかし以外は現世へ渡ってはならないと言われているのを知らないわけではないだろう?」
つまみ上げられ、ジタバタと暴れていたカガミだったが嵐果の言葉にどんどん大人しくなっていく。
「そんなこといったって……オレたちはヒトがすきなんだ。なんであいにきちゃダメなんだ?」
「あやかしが人を好きでも、人はあやかしが見えない。そのせいで苦しむことになるのはあやかしの方だ。その苦しみが蓄積されて厄災となって人を傷つけたら元も子もないだろう?」
正論を突かれたカガミは、手足をぶらぶらさせシュンと落ち込んでしまった。
そんな様子を見ているうちに、紫乃は心臓の鼓動が落ち着いてきているのを感じた。うるさいとは思ったが、騒ぐカガミを淡々と言葉で落ち着かせた嵐果はそれほど恐ろしい存在には見えない。
なにより彼は「あやかしが人を傷つけることはない」とハッキリ口にした。その自然さに、嘘はないのだと理解する。高位のあやかしも、カガミほど表には出さないが人が好きなのだろうと安堵した。
(それにしても、あやかしは人に認知されない苦しみが蓄積されて厄災になる、なんて……)
これまでに見たあやかしたちの様子で予測はしていたが、本当にそれだけで厄災となってしまうのか、と紫乃はなんとも複雑な心境になった。
「みんなが、あやかしの姿を視ることが出来ればいいのに……」
つい、呟いた。
あやかしが厄災となる経緯を知り、蓄積されていた思いが言葉として出てしまったのだ。
皆が視えれば、あやかしが本当は人を好きだということも知れ渡る。あやかしも、認知されず苦しみ厄災となってしまうことを防げる。
見鬼の力がある者は門の贄となるという問題はあるが、多くの者が視えればいいのにということはずっと思っていたことだった。
だが、そんな紫乃の言葉と思いは聞き留めた嵐果によって否定される。
「いや、視えるようになってもらっては困る」
「え?」
驚き顔を上げて見えた嵐果は、厳しさすら感じる真剣な様子で紫乃を見ている。
「あやかしは純粋だ。それは低級であるほど顕著だ。だが人は時に嘘をつき、だまし、傷つける。人にあやかしが視えたら、あやかしたちは今以上に傷つけられるだろう」
「そんな、こと……」
実際になってみなければわからないだろう、と思ったが、嵐果はまるでそうなるのがわかっているかのような顔をする。その自信を感じ、紫乃はまたうつむき言葉を失った。
人通りが多くなってきた道で数拍黙り込んでしまうと、嵐果が「あー」と気まずげに声を上げる。
「こんな話をするために声を掛けたわけではないんだ。弦治の孫――紫乃と言ったか?」
「あ、はい」
名を呼ばれ、紫乃は意識を切り替え顔を上げた。すると少々幼くも見える嵐果の困り笑顔が視界に入る。
「俺はお前が持っている琥珀の対となる物を探しているんだ。紫乃、お前にはそれを探し出すために協力してもらいたい」
何故、自分が琥珀を持っているとわかったのだろう? そして何故、ついさっきはじめて会ったばかりのあやかしに協力をしなければならないのだろうか?
納得できない部分があるというのに、なぜか口を突いたのは拒否の言葉ではなかった。
「協力って、なにを……?」
「それは道中話そう。こんな人通りの多い場所で話すことではない」
嵐果の言葉に周囲を改めて見回した紫乃は、それもそうだなと思いうなずいた。
***
まずは移動しようということで、紫乃はそのまま当初の目的通り祖父の書庫へと向かった。
予定外に嵐果と出会ってしまったため、本来なら書庫に向かう時間はもうない。だが、嵐果の話が気になった。
今から書庫に向かうことで学校には間に合わないだろうが、紫乃が登校しなかったとしても誰も騒がない。学校側も、見鬼の力を持ちあと一年でいなくなってしまうのがわかっている紫乃に干渉してくることはあまりなく、このまま休んだところでなんの問題もないだろう。
とはいえ家に連絡が行ってしまう可能性はある。電話が来たところで両親はわかりましたとだけ答え自分を探しもしないだろうが、面倒なことが起こっても困るので念のため学校には休むと連絡を入れた。
電話を終え、スマホをバッグに仕舞うと紫乃は隣を歩く嵐果を見上げる。
恐ろしさすら感じる美しさを持つ嵐果だが、カガミとのやり取りで彼の素のようなものも見たからか親しみやすさを感じている。少なくとも、彼の姿を見た瞬間の恐れ多いというような感覚はほとんどなくなっていた。
ちなみにカガミは嵐果の用事とは関係ないので共にいる必要はないのだが、紫乃とまだ一緒にいたいというので今も紫乃の後ろをトテトテと付いてきている。
「連絡は終わったか?」
「あ、はい」
学校への連絡を終えるのを待っていてくれた嵐果に頷いて返事をすると、彼はまず自分の用件を説明してくれた。
「お前の持つ弦治の形見の琥珀。その対になっている物を探しているというのは話したな」
「はい」
相槌を打ちながら続けて聞いた話によると、その対になっている物は幽世の山岳地帯を統べていた大天狗の遺産を得る鍵になるのだそうだ。
大天狗の孫である嵐果は、その遺産を得るために奔走しているのだという。
一通り話しを聞き、紫乃は真っ先に思った疑問を口にする。
「話はわかりました。けれど、何故その鍵と対になる物が祖父の琥珀だと? 大天狗と祖父は何か繋がりがあるんですか?」
まるで接点が見つからず、どうしてなのか本当に不思議だった。
だが、その答えはすぐに知らされる。
「ああ、大天狗と弦治は相棒と言えるような仲だったらしい」
「へ?」
あまりに予想外の答えに紫乃は目を見開いたまま固まってしまう。
人とあやかしが相棒など、どういった経緯でそんなことになったのか……。
だが、続けて知らされたその疑問の答えはさらに驚きのもだった。
「不思議か? だが弦治も紫乃と同じく見鬼の力を持っていた。あやかしを視て、それらに関わってきていたのならある意味必然だろうよ」
「っ!?」
あまりの驚きに、紫乃の呼吸がしばらく止まった。限界まで開かれた目で嵐果を見つめる。
何度も開け閉めした口から、紫乃はやっとの事で言葉を紡いだ。
「どう、して? 見鬼の力を持っていたのなら、十八で門に喰われてしまうんじゃないの? おじいちゃんは、子供も孫も出来て、七十九まで生きていたのよ?」
指先まで身体が震える。
信じられない、嘘だとしか思えない。
だというのに、嵐果は顔色も変えず紫乃を見る。そしてその長い人差し指で紫乃の胸元にある琥珀のペンダントを指した。
「その琥珀に力を移したのだろう? どうやったのかは知らないが、その琥珀には弦治の見鬼の力が封じられている」
紫乃にはわからないが、この琥珀に弦治の見鬼の力が封じられていることは高位のあやかしである嵐果にはわかるようだ。嵐果は琥珀に封じられた見鬼の力を辿って、紫乃を見つけたのだと教えてくれる。
(本当、なの?)
見鬼の力を持つ者は門の贄となる。それはどうしようもないことで、変えられない未来だと諦めてきた。
だが、祖父は変えたのだ。どうやったのかまではわからないが、琥珀のペンダントに力を移すという方法で。
いずれ死ぬ運命だからと、色々なことを諦めてきた。
夢も、友人も、家族も……。
今更生きる術を見つけても、もう手遅れになっているものもあるだろう。
紫乃の中で、様々な感情が渦巻く。
一度目を閉じ、荒ぶる感情から特に強いものをすくい上げた。
色んな思いはあるが、一番に思うことはただ一つ。
諦め、奥底に眠らせていたその思いは――。
(私は、もっと生きたい!)
渇望するほどの思いに紫乃は目蓋を上げた。
丁度、祖父の書庫へと着いたところだ。
紫乃は、書庫兼祖父の書斎でもあったその建物の鍵を開け、嵐果を見る。
「嵐果さん、あなたの捜し物を見つける手伝いはするわ。だから、その話を詳しく教えてください」
強い意志を宿した琥珀色の瞳を真っ直ぐ嵐果に向けた。
その眼差しを受けた嵐果は、黒耀の目を軽く見開いた後、とても楽しそうな男らしい笑みを浮かべる。
「嵐果でいい。敬語もいらない。……今から俺たちは、パートナーだ」
そう言って自分の願いを聞き届けてくれた嵐果を、紫乃は祖父の書庫へと招き入れた。
――このときの嵐果の『パートナー』という言葉の意味を知るのは、もう少し後の話。
END