さっそく冷蔵庫を開けて、なにがあるのかを確認する。この前買い物に行ったから、食材はたんまりとあった。多めに作ってしまうくせを、なんとかしたいと考えながらも冷蔵庫の中を確認する。

美咲(みさき)ちゃんは、もう食べられるようになったかねぇ」

 子どもの頃は苦手だった食べ物も、大人になれば味覚が変わり食べられるようになる。その筆頭であろう山菜を思い浮かべ、恵子(けいこ)は少し考え込んでからちらりと自分では飲み切れない日本酒の瓶に視線を落とす。

 美咲は()()だ。お酒を飲む量が計り知れないほどの。

(……この日本酒、冷やしておきましょう)

 山菜料理に合わせるのならば、きっと日本酒がよい。そう考えて恵子は一升瓶の日本酒を冷蔵庫に入れた。

「そうそう、芽衣(めい)ちゃんが来る前にばっけをもらったのよねぇ。お酒のあてになるかも?」

 春のごちそうといえば、真っ先に山菜が思いつく。この時期にしか食べられないものだからだ。

 ふきのとうの天ぷらも良いだろう。苦すぎるのは苦手なので、苦くない葉を選ぶ。

 どのふきのとうもきれいに洗い、しっかりと泥や埃を落とす。キッチンタオルで水分を拭い、恵子は小さく「このキッチンタオル、丈夫ねぇ」と笑った。

 水で洗っても破れないからおすすめ、と娘に渡されたものだ。半信半疑だったが、使ってみると便利で、恵子もすっかりリピーターになっている。

 きれいになったふきのとうを見て、恵子はにんまりと笑う。手間はかかるが、その手間の分、美味しくなるのだ。

「せっかくだから納豆汁にも入れちゃいましょ」

 ふきのとうはたんまりとある。美咲が食べてくれるのなら助かるほどに。

 ばっけみその作り方は簡単だ。みじん切りにしたふきのとうと、調味料だけで作れる。フライパンにサラダ油をひき、みじん切りにしたふきのとうを入れ炒め、味噌、日本酒(調理酒でも可)、みりん、そして砂糖を入れて水分を飛ばすように炒めれば完成だ。面倒だったらみそとみりん、めんつゆで作ればいい。

 恵子は目分量で作るので、味付けは適当だがしっかりと味見をしている。

「ん、こんなもんだべ」

 ぱくりと一口食べてから、味に納得したようにうなずく。冷ましたら味が馴染むだろう。

 納豆汁に入れる分のふきのとうも刻んでいたので、納豆汁も作る。豆腐とねぎも入れるため、豆腐はさいの目切り、ねぎは小口切りに。鍋に水を入れ沸騰させてから顆粒出汁を入れ、溶かす。豆腐を入れて火を止めた。

 味噌を溶かし、ひきわり納豆と刻んだふきのうとうも入れる。最後にねぎを入れて蓋を閉じる。

「あとは……ああ、せっかくだから土鍋で炊こうかね」

 親戚からもらった米を三合用意し、お米を研ぎしっかりと吸水させる。ご飯を炊く用の土鍋は、娘が使っていたものだが『お母さん、使わない?』と恵子に渡された。

 娘が母の日にと買ってくれた無水鍋もあるが、あれは重くてなかなか使うタイミングがない。

「……ご飯に日本酒……お米三昧(ざんまい)ね」

 くすりと笑って、日本酒を冷やしている冷蔵庫に視線を向けた。