「いただきます」

 ほかほかの白いご飯に、インスタントの味噌汁。近所の人からもらったきゅうりの辛子漬けに、昨日作ったなめたけという朝食を前にして、恵子(けいこ)は手を合わせてから箸を持つ。

 大きめのスプーンでなめたけを白米の上に乗せ、ぱくりと一口。

「うん、さまれたから味がしみ込んでうんまい」

 作りたての熱々のなめたけも悪くないが、やはり冷めていくうちに味がしみ込んでいくんだろう。市販のなめたけが苦手だった娘も、これは『美味しい!』と目を輝かせて食べていた。

 作り方も簡単なので、娘にも教えた。その結果、娘は娘なりにアレンジを加えて楽しんでいるらしい。電話で話す彼女の声はとても弾んでいて、聞いているだけでなぜか心が穏やかになる。

 味噌汁を一口飲み、うんうんと小さくうなずく。企業の努力の結果で生まれた味噌汁だ。美味しいに決まっている。具もたっぷりと入っていて、お湯を注ぐだけで良いというのは本当にすごいと恵子は思う。

 いただきもののきゅうりの辛子漬けも辛味と塩味の塩梅が良く、パリパリとしたきゅうりの食感も良い。歯は大事にしなければ、と考えながら朝食を食べた。

「ごちそうさまでした」

 両手を合わせてつぶやき、すぐに食器を洗うために立ち上がる。

「さて、今日はどんな日になるかねぇ」

 食器を持ってキッチンのシンクに置き、早速使った食器を洗う。それから洗濯と掃除をし、午前九時までにはほぼすべての家事を終わらせた。

 九時には散歩に出かけている。娘から口を酸っぱくしていわれているので、日焼け止めクリームをしっかりと塗り、帽子を被ってリュックを背負って散歩にいく。

『お母さんは散歩ついでに買い物するでしょ? リュックにしたほうが良いよ。これ、あげるから使って!』

 と、数年前に娘からもらったリュックサックは軽くて丈夫だ。

 ポケットもたくさんあるので、いろいろなものを入れている。

「さぁて、じゃあ今日も行ってきますね、勇さん」

 玄関から外に出ると、お隣の熊谷家に引っ越しのトラックが停車していることに気付いた。

(そういえば、先日……娘が孫を連れて帰ってくるって言っていたわねぇ)

 隣――といっても田舎なので二キロほど先――の熊谷家では、孫の小学校入学に合わせてこの田舎に帰ってくる、という話を先日聞いていた。きゅうりの辛子漬けをお裾分けとして持ってきてくれたときに、世間話としていた会話を思い出す。

「今日だったのねぇ」

 トラックから女性と子どもが降りてくるのが見える。そして、恵子に気付くと子どもが大きく手を振りながら、「けーこばぁばー!」と大声で彼女のことを呼んだ。