「あの双葉、義姉上は大丈夫なの?」


 何も状況を知らない文は側近の双葉にそう問いた。


 「大丈夫ですよ。姉上はきっと神楽様を呼びに行ったのでしょうね」

 「兄上、ですか⁈どうして?」

 「神楽様と文様の関係を直すため、でしょうね、きっと」


 確たる証拠はないが、きっとそうだろう。

 香取詩織という人物はそういう人間だ。

 双葉がお手上げなことも姉の詩織は本能と感情に従って突拍子もない行動で全てを解決してきた。

 (きっと姉上なら大丈夫)


 「わたくし達の仲を変えても、義姉上には全く利がありませんよ?」

 「姉上は利なんて気にしませんよ」


 気にするというよりも、詩織は利なんて考えていない。

 ただ助けたいという感情だけで、いろんなことに首を突っ込んでいるのだから。

 当然ながら、詩織は事務関連は全くできないので、一手に率いるのは双葉であった。

 詩織が動くせいで双葉は目を回すほどの忙しさに覆われるが、そんな日々も楽しさを感じてしまう。

 (なんとなく神楽様が姉上を選んだ理由が分かってしまいます)

 常識や教養など知らない詩織との日々は尋常ではないほどの忙しさを与えてくるが、それ以上に退屈しない毎日がやってくるのだ。

 詩織が嫁いだせいでもうこんな日が来ることはないと思ってしまうと悲しくなってしまうが、顔には表さない。

 その時、襖が開く音がした。


 「詩織から緊急事態だと呼び出されたのだが、何があったんだ?」

 「緊急事態なのは神楽様と文様の関係ですよ」


 襖から入って来たのは、詩織と神楽だった。

 神楽の顔は無表情だったが、詩織のことを見つめていた。

 (姉上がこれほど愛されていると分かっただけで十分......)

 双葉は側仕えらしく雑念を排した詩織と似ているその顔に笑みを浮かべた。