「詩織!」


 眩しいと感じてしまう風景には神楽の姿があった。


 「か、ぐら様?」


 普段は全く感情が浮かない表情には心配と不安と安堵。

 様々な感情が込められていた。


 「良かった......」


 当然抱きしめる神楽に詩織は狼狽えてしまった。


 「え?どうしたのですか、神楽様?もしかして、私が押した時、頭でも打ちましたか?」

 「打っていない!そんな間抜けな行動はしない」

 「それは良かっ」

 「詩織が消えるかと思った......」


 詩織の耳元でささやく声はいつもの呆れた声でもない。

 消えてしまいそうな声だった。

 (神楽様......)

 普段は聞くことのない神楽の本音。

 ここで簡単に消えないと言ってもきっと信じられないだろう。

 だって、今、行きかけたんだから。


 「私、もっと強くなりますね。武器なんてなくても神楽様を助けられるぐらい。私があなたのことお守りいたします」

 「今生き返った者に言われてもな......。だが、いつでも引っ張り上げるから、覚悟しておけ」

 「はい。お願いします!」

 「喜んで受けるな!この馬鹿者!」

 「うぅ......」


 否定できないのが辛い。


 「全く......。詩織は......」


 呆れながらこちらを見る視線が優しかった。

 (本当にこっちに帰って来たんだな......)

 詩織の居場所は神楽の隣。

 だから、向こうに行っても幸せになれないのだろう。


 「神楽様、私は神楽様の隣にいるのが幸せみたいです。これからもよろしくお願いしますね」

 「ああ。俺がみっちりと鍛えてあげよう」

 「......ほどほどでお願いいたしますね」


 勉強したくないと詩織は涙目になるで、神楽に一笑されるだけで終わってしまった。





 これは勉強を捨てて得意なことに特化して来た一人の少女が恋を知るまでの物語。