気が付くと真っ暗な暗闇にいた。

 燃えるような痛みも震えるような寒さもない。

 でもその代わり何も感じなかった。

 (神楽様は大丈夫でしょうか?まあ、でもきっと私の代わりはいますよね)

 子どもの致死率が高いこの時代。

 お家断絶から逃れるために殿方は正妻である正室の他に側室を迎える。

 そして、正室がいなくなったら後室を迎えたり、側室から正室に上げたりしていた。

 そのことに不満はない。

 至って普通なこと。

 それなのに、どこか苦しくて痛かった。

 (刺されたところは痛くないのに変ね......)

 神楽と結婚することも特に気にすることなかった。

 剣の鍛錬さえできれば良かった。

 このまま真っすぐ歩けばきっと幸せに満ちた世界が広がっている。

 それなのに、疲れているはずないのに、歩くのは遅くなっていく。

 そんな時だった。

 どこからか淡い光が降り注がれた。

 温かい雨は真っ暗な世界に降り注いだ。

 (この気配は知っている......)

 人を覚えるのが苦手な詩織はまじないで判断していたから誰なのか分かる。

 いつも隣にいて

 どうしようもないほど愛情表現に不器用で

 それなのに優しくて......

 (神楽様、今参ります)

 詩織は出口から背中を向けて淡い光で輝く道を歩き出した。

 痛みも苦しみもない暖かな光に包まれた。