たった一つの門だけで目に入るものが変わる。
市に出た瞬間に聞こえるのは、砕けた言葉。
見えるのは砂埃にまみれた姿。
(こうして見ると城と市って結構違うな)
普段何気なく見ている風景を改めて見ていると
「詩織、あそこの店に入らないか?」
隣を歩く神楽に誘われた。
神楽が示したのは、今話題のお店だった。
他の店では見ない繊細さで若い女性を掴んでいるそうだ。
詩織は入ったことないが、最近その店の商品を付けている人が増えている気がする。
「分かりました」
暖簾を上げて入ると商品棚には数多の細工が入ってあった。
日用的に使える櫛から特別な時にしか使えないような豪奢な簪まで。
(そういえば私、櫛壊れたんだっけ。ここで買っちゃおっかな)
詩織が使っている櫛の歯がこの間折れてしまった。
一本折れるとその周りも折れていく。
只今詩織の櫛は合計四本折れていた。
(折れにくい櫛と言ったらみねばりよね)
みねばりが心材が非常に硬くて折れにくい木材。
「詩織、何を悩んでいるんだ?」
「どの櫛にしようかなって。みねばりの櫛にこんなにも種類があるなんて思いませんでしたから」
詩織の視線の先にはみねばり製の櫛が一面に飾られていた。
意匠が凝っている物。
木目を生かした物。
似ている商品はあるが、同じものは一つもなかった。
「これとかどうだ?」
神楽が手に取ったのは、持ち手に桃の花が彫られているものだった。
「ではそれにいたします」
詩織は特に模様に関しては気にしない。
使いやすくて動きやすい物だったら何でも良い。
詩織の好みを知っている両親が準備した着物はどれも簡素で余計な模様が描かれていなかった。
そのせいで、神楽から華美すぎない物が好きと認識されていることを詩織は知らない。
「分かった。では買ってこよう」
「え⁉私が買いますよ」
「お嬢さん、旦那さんに良いとこ見せてあげな」
生暖かい目でみる店主に詩織は止められてしまった。
詩織が手持ち無沙汰になっている間に神楽はさくっとお会計を済ませてきた。
お店から出ると市を再び歩いていく。
目的地がないので、ゆっくりと店先に並ぶ野菜やお菓子をじっくり見ることができた。
「こうしてみるとどれも買いたくなってしまうな」
「お城がいっぱいになってしまいますね」
神楽は冗談で言ってみただけだが、詩織には通じることもなかった。
言葉通りに受け取って物で溢れる城を想像していると、
「きゃああああ⁈」
金切り声が聞こえた。
悲鳴を上げた女性の先には刃物を持った男がいた。
そして男の先には
「神楽様⁉」
(しまった。武器は全部置いてきちゃった)
男を押さえようとも武器がない。
いくら鍛錬をしている詩織でも我を失って突っ込んで来る男を止められるほどの力はない。
このままでは神楽が刺されてしまう。
(そんなことさせない)
詩織は神楽を押して、神楽を正面から動かした。
不敬極まりないが、きっと上で許してくれるだろう。
詩織が前を見るのと一緒に体が熱くなって重心を失った。
詩織が最後に見たのはこちらに掛けこんで来る神楽の姿だった。
市に出た瞬間に聞こえるのは、砕けた言葉。
見えるのは砂埃にまみれた姿。
(こうして見ると城と市って結構違うな)
普段何気なく見ている風景を改めて見ていると
「詩織、あそこの店に入らないか?」
隣を歩く神楽に誘われた。
神楽が示したのは、今話題のお店だった。
他の店では見ない繊細さで若い女性を掴んでいるそうだ。
詩織は入ったことないが、最近その店の商品を付けている人が増えている気がする。
「分かりました」
暖簾を上げて入ると商品棚には数多の細工が入ってあった。
日用的に使える櫛から特別な時にしか使えないような豪奢な簪まで。
(そういえば私、櫛壊れたんだっけ。ここで買っちゃおっかな)
詩織が使っている櫛の歯がこの間折れてしまった。
一本折れるとその周りも折れていく。
只今詩織の櫛は合計四本折れていた。
(折れにくい櫛と言ったらみねばりよね)
みねばりが心材が非常に硬くて折れにくい木材。
「詩織、何を悩んでいるんだ?」
「どの櫛にしようかなって。みねばりの櫛にこんなにも種類があるなんて思いませんでしたから」
詩織の視線の先にはみねばり製の櫛が一面に飾られていた。
意匠が凝っている物。
木目を生かした物。
似ている商品はあるが、同じものは一つもなかった。
「これとかどうだ?」
神楽が手に取ったのは、持ち手に桃の花が彫られているものだった。
「ではそれにいたします」
詩織は特に模様に関しては気にしない。
使いやすくて動きやすい物だったら何でも良い。
詩織の好みを知っている両親が準備した着物はどれも簡素で余計な模様が描かれていなかった。
そのせいで、神楽から華美すぎない物が好きと認識されていることを詩織は知らない。
「分かった。では買ってこよう」
「え⁉私が買いますよ」
「お嬢さん、旦那さんに良いとこ見せてあげな」
生暖かい目でみる店主に詩織は止められてしまった。
詩織が手持ち無沙汰になっている間に神楽はさくっとお会計を済ませてきた。
お店から出ると市を再び歩いていく。
目的地がないので、ゆっくりと店先に並ぶ野菜やお菓子をじっくり見ることができた。
「こうしてみるとどれも買いたくなってしまうな」
「お城がいっぱいになってしまいますね」
神楽は冗談で言ってみただけだが、詩織には通じることもなかった。
言葉通りに受け取って物で溢れる城を想像していると、
「きゃああああ⁈」
金切り声が聞こえた。
悲鳴を上げた女性の先には刃物を持った男がいた。
そして男の先には
「神楽様⁉」
(しまった。武器は全部置いてきちゃった)
男を押さえようとも武器がない。
いくら鍛錬をしている詩織でも我を失って突っ込んで来る男を止められるほどの力はない。
このままでは神楽が刺されてしまう。
(そんなことさせない)
詩織は神楽を押して、神楽を正面から動かした。
不敬極まりないが、きっと上で許してくれるだろう。
詩織が前を見るのと一緒に体が熱くなって重心を失った。
詩織が最後に見たのはこちらに掛けこんで来る神楽の姿だった。