神楽と文が話している一方で外に出た詩織と双葉はというと、


 「姉上、この後どうするのですか?」

 「どうしようか?」


 この後のことを何も考えていなかった。


 「姉上ったら.........。でもらしいですね。こういう姿を見ると安心します。姉上、お城にきても鍛錬はしていますか?」

 「もちろん。せっかくだし、見ていく?」

 「ではお言葉に甘えて」


 城の外へと出ると、屈強な男達が練習に励んでいた。


 「おや、双葉様ですか。お隣にいらっしゃる方は?」

 「神楽様の正室となったわたくしの姉です」

 「詩織と申します。これからよろしくお願いいたしますね」


 男達は妻がいる者もいるというのに、微笑んだ詩織の姿にたじたじとなった。


 「は、はい。これからよろしくお願いいたします!」

 「あ、あのどうしてこちらに?」

 「体を動かそうと思って来ました。お邪魔にならないように端の方で練習いたしますね」

 「いやいやいや。詩織様はどうぞ、中心で」

 「詩織様を端にやったなんて神楽様の耳に入ったらどうなるのか分からないんで、どうぞ中心に」


 突如あいた空間を詩織は使うことになってしまった。


 「姉上、頑張って下さいね」


 (妹に頑張ってと言われたら、頑張らないとですよね)

 双葉に良いところをみせようと詩織が選んだものは形でもなく、素振りでもなく、剣舞だった。

 剣舞とは吟詠に合わせて刀を持って舞う舞踊。

 武道の形を芸術的に昇華したのが剣舞なので、唯一詩織ができる舞だった。

 今は外にいるので楽器も歌もない。

 剣技だけではどうにも華やかさが足りない。

 でも詩織にはまじないがあった。

 刀に込めることで、刀身が青く光り、漏れ出るほのかに青い光が飛び散った。

 まじないとは身体に使うものであって、武器のような物に使うべきではないというのがこの国の常識だった。

 しかし、まじないが込められた剣を手に取って、自由自在に振り回す美少女は見ている者を釘付けにする魅力があった。

 見慣れている双葉も言葉を失うほどの美しさは始めている男達のどう映ったのだろうか?


 「おぉ......」


 感嘆な言葉が口から洩れていく。

 詩織の動きが止まり、刀身が鈍い金属の光沢を放っても、誰も動くことができなかった。


 「あ、あの、双葉、どうだった?私、何かしちゃった?」

 「まさか。姉上の剣舞に動けなくなってしまっただけですよ」

 「その通りだな」

 「義姉上、素晴らしかったですよ」


 そう言って詩織の前にやって来たのは、神楽と文だった。

 ようやく現実に戻った男達は現れた領主一族に跪いた。


 「詩織のおかげで文との関係が変わった。感謝する」

 「双葉、ありがとう。兄上との仲が修復されました」


 突然、感謝の言葉を述べる神楽と文に目を瞬せながらも、


 「役に立って良かったです」

 「文様を心地よくさせることが側仕えの仕事ですし、わたくしは何もしていないので、礼には及びませぬ」


 詩織は儚い微笑を浮かべながら、双葉は側仕えらしく答えた。

 (神楽様は答えを見つけられたみたいね)

 神楽と文に流れる空気が殺伐とせず、人の温かみを感じることができるようになったことを、詩織は慈愛に満ちた瞳でそっと見つめていた。