数ある国の中の一つ、佐久穂国(さくほのくに)では、農民、町民、武士と身分関わらず国民全員が人間を超越した力ーまじないーを使うことができた。

 そして、国を治める国主一族は奇跡と呼ばれる力を扱うことが可能だった。

 国主は若き息子の才能に期待し、まだ四十になっていないにも関わらず、国主の座を息子である神楽(かぐら)に渡した。

 国は安定し、平和の世となる中、国主の心配ごとは神楽にはまだ嫁がいないことだった。

 その理由はただ一つ。

 神楽が表情を動かすことが無く、必要以上のことを話さないからだ。

 この状況を何とか打破しようと、国主一族は一つの御触れを出した。

 それは身分関係なく、神楽の表情を僅かでも動かした者を正室にするというー。