嫌なほど精巧に作られた、きっと誰かの頭部は、目を薄く開いた状態で時を止められている。
「こんなの、悪夢だ……」
――あぁ、それならこれまで埋めたもの達は?
一度知ってしまうと、引き返すしかない。
知らなかった事には出来ない。
忘れてしまうなんて、したくない。
真っ青な大地には、綻びのような穴が空いている。
それを塞ぐために箱を埋めていた。
よく目立つ、真っ白の箱を。
かつて埋めた箱を掘り起こすたびに、仲間達は言った。
「わざわざ確かめる必要はないよ」
「思い出さない方が、辛くないのに」
「君はここにいる方が幸せになれるよ」
都合の良い、甘い言葉で引き留めようとするが、実際彼らは何もしてこない。
ただ、こちらを光の無い瞳で眺めているだけ。
「あのさ、ここは何処?」
……いくら待っても、核心に迫る答えは返ってこない。
きっと、こんな問答に意味などないのだろう。
ここはそういった場所なのだ。
誰もが答えを知っているのに、口にしない。
それで成り立つ世界。
箱を全て掘り起こし、一つずつ中身を暴いていく。
そこからは、脚、胴体、腕……頭部以外の、各関節ごとに分断された身体の部品が現れた。
不思議と組み立てるのに苦労はしなかった。
あるべき場所に、あるべき物を置けば勝手にくっつく。
こうして一体の人形が完成した。
……そうだ。嫌な予感はずっとしていた。
顔を見ても、実感を得られなかったのに。
皮肉にもこの異質な両手が決め手となったのだ。
――これは、わたし?
「……いいや、俺の体だ」
これはただの人形じゃない。
俺の身体を模した、等身大の紛い物だ。
どうしてこんな物を埋めていたのか。
自分に酷似した人形をバラバラにして埋める、なんて。
……悪趣味が過ぎるだろ?
――あぁ。いい加減、戻るべきだ。
こんな場所で油を売ってる暇はない。
――間に合うだろうか?
「誰かを……探して、いたのに」
あぁ、眩暈がする。
霧がかった様に上手く思い出せない。
その「誰か」に関する記憶が、すっぽり抜け落ちている。
「とにかく帰ろう。元の場所に」
たとえ行き着く先が……この悪夢より過酷な、現実だとしても。