「さて、ボクからも質問。初歩的な質問ではあるけど、念の為。キミはどうして鞠月神社を訪れたのかな?」
「それは、」
盲点だった。大前提として、何の目的があったのだろう。
……いや、冷静に考えたら神社を訪れる目的なんて、普通参拝以外に何がある?
とは言え、その推察に納得出来ない自分がいる。
どうしてここまで、正確に思い出せること思い出せないことにムラがあるんだ。
まるで……決定的な何かが、欠けてしまっているような。
俺の沈黙を予想通りと言わんばかりの表情で、彼は問いかける。
「思い出せない? それとも、思い出したくない?」
「……思い出したいはずなのに、思い出さなくてはいけない物量に愕然としているところだ」
「それは良好。だって向き合うために戻ってきたんだろうし」
「……!!」
「だから自分の力で脱出した。第一茶室に抜け落ちたのは運が良かったね。いや、縁が強いのはあそこだから当然かな」
……つまるところ。
ヨミトの言い分だと、俺はどこかに捕らえられて、長いこと眠らされていた。
その後、明確な目的を持って、自分の力で脱出したらしいが、詳細を覚えてない。
それは眠っていた時の夢が原因と考えられる。
現実と錯覚するほど長く夢に触れていたせいで、記憶が侵され、目覚めた今も大部分の記憶が混濁している。
いや……果てしなく胡散臭いな。
シュンセイの言った通り、ヨミトを信用し過ぎないほうが賢明そうだ。
――もう何を言われても聞き流そう。
全て真面目に聞いていたら気が狂ってしまう……そう心に誓った矢先だった。
ヨミトは芝居がかった調子で語りかける。
「んー、とは言ってもね。まさか出てこられるなんて。もう間に合わないと思っていたよ」
「なにが」
「あれから約70年だからね。そろそろ、もう堕ちたかなーと思ってたんだ」
「は…………?」
いきなり素通り出来ない単語が出てきた。
――70年、だと?
なに言ってるんだ。
そんな浦島太郎的な話があってたまるもんか。
浦島太郎はいいさ、楽しく過ごした思い出がある。
対して俺は何も覚えてないんだぞ。
「いやいや。そうじゃなくて、冗談はよしてくれ」
もはや心の中の独り言が、口から出ている。
それくらいには、動揺してるし、取り繕う余裕もない。
「冗談じゃないさ。ユメビシがある場所で眠ってた年数。なに、些細な時間だろう? ボクらからすれば」
「そんな訳ないだろ、一大事だ……!」
「まあ今は実感無くても、そのうち分かるよ。惨いよね21世紀」
「実感以前にお前の発言を信用したくない!」
「はははっ! 嫌われちゃったなぁ……て、どこに行くんだい」
このままでは埒が開かない、と踵を返した所を呼び止められる。
正確には想像より力強い腕力に手首を掴まれてしまい、振り解けない。
「とにかく……! 俺は、もう少し信頼できる筋から話を聞きたいんだ」
「えぇーー、さーみーしーいー。そんな信じられない? 嘘は言わないタチなんだけどなぁ」
「その口調が胡散臭さに拍車をかけるんだよ!」
「それはそれとして。ダメだよ、ユメビシ。この島にも色々ルールがあるのだから」
「は、島……?」
「そう。今いるのは本土から離れた孤島で瞑之島」