――この違和感はなんだろうか。
厳密に言えばこの二人の態度。
名乗った覚えはない、はずだ。
その上コレを見ても驚かないどころか、友好的に接してくる。
『んー、覚えてないのはキミだけさ』
俺だけが、覚えてない……?
突然降ってきたのは、かつて誰かに言われた言葉。
――いつ、どこで、誰に。
喉まで出かかっている正体に、後一歩で辿り着けない。
「お困りのようだね、大丈夫? 自己紹介とかして親睦深める?」
「二人は、その……俺のことを知ってる風に聞こえたが」
「別に全てを把握している訳じゃない。まあ俺からも聞きたいことあるし、情報交換といこうか」
「それは正直助かる」
「よし。まずお前の悩みを一つ解消してやる。俺達がユメビシの名やら事情やらを知ってたのは、当時あの現場に立ち会ったからだ」
「…………なんだって? それじゃあ、ここはあの時迷い込んだ、」
「まあ厳密に言えば、お前が発見されたのは別の場所らしいが。大きな土地という括りで言えば、そうなるな」
「ユメビシはまだ幼かったし、それどころじゃなかったもんね。覚えてなくても不思議じゃないよ」
「……君も、いたのか?」
「そいつ、見た目はこれだが、年齢はお前より上だぞ」
「え」
「お姉さんだぞ〜改めてよろしくね、トキノコです」
「宜しくお願いします……」
「で、こっちが第一茶室の主人、シュンセイ」
「敬えよ」
「さっきから気になっていた、その第一茶室というのは? ここ茶室というより、普通の民家に見えるんだが」
「『第一茶室』ってのは、この独立した神域指す名称。あとは企業秘密だ」
「……なるほど?」
「そして神域である以上、易々と此処まで辿り着けないはずなんだ。……お前、本当どこから入った?」
「うん。簡易ではあるけど、入り口を隠す呪いもあったのに。ユメビシと喰い姫がこうして侵入出来てるもんね」
「俺はただ、目が覚めたら下の階段で倒れていたんだ。それで……とりあえず登ってみようかと」
「あ? 階段で寝てたのお前? あのな、神域ってのはその階段も含まれてるのに、すでに中にいたなんてあるか。それ以前は何処にいたんだ」
「以前……それがよく思い出せない。てっきりこの上から転がり落ちて、気を失っていたとばかり。シュンセイこそ何か心当たりはないのか?」
「俺はないんだが……」
そこで会話は打ち止めになって、沈黙が訪れる。
シュンセイは仏頂面で何やら考え込み、その様子をトキノコが心配そうに見つめていた。
「シュンセイ、もしかしてさっきの電話……」
「あぁ。ほぼ間違いなく、うちのトラブル製造野郎の企てに巻き込まれたんだよ。詳しい内容までは知らないが」
「またヨミトさんか……。ほら、放送で喋ってた男の人」
「……あぁ、あの」
「重ねて残念な知らせだが、そいつからの指示でな。お前を保護したいからトキノコに送って貰え、とのお達しだ」