ユメビシを気絶させた後。
縁側でトキノコが介抱してる間に、傘ザクラへ連絡を入れるため手早く奥の部屋へ向かう。
この室内に置かれた、唯一の異物。
配線など繋がってない、一見すればただのお飾りである黒電話が床に放置されている。
その受話器を取り、闇に向けて命じた。
『第一茶室だ、傘ザクラに繋げ』
少し待てば、虚無であった空間から突然声が返ってくる。
「はーい、もしもし。こちらヨミト」
「単刀直入に聞く。今回の騒動、心当たりがあるんじゃないか?」
「ほう? ボクが疑われている要因を、聞いてもいいかな」
「……ユメビシと思われる少年を、第一茶室で預かってる」
「ははーん、なるほど興味深いね。それなら急に境界が脆くなったのも、彼がキミの元へ現れたのも納得だ」
「あんた、確実に裏で糸引いてたな?」
「まあ、そうかもね。でも今は話すつもりもないから、説明はまた後日。あぁ、一応断っておくと、キミの庭師が帰って来ない件については、何も関与してないからね」
「安心しろよ。そこは弁えてるさ」
「うんうん。そのサッパリした性格、結構気に入ってるよ」
「気色が悪いな。それで、こいつをどうするつもりだ?」
「そうだなぁ。とりあえず傘ザクラで保護したいね。とは言っても、こちらも人手不足だから……あ、トキノコはまだいるかい?」
――思い出したくないような、懐かしいような。
そんな夢を見ていた気がする。
そっと瞳を開けると、素朴な天井の木目が広がっていた。
今は何処に居るのだったか……
必死に現在の状況を推察していると、見覚えしかない赤い少女と目が合った。
「あ、おはよ〜う。気分はどう?」
「……腹が痛いです」
「うっ、ごめんなさい……あの、手の方! そっちはどうかな?」
「言われてみれば、随分楽になった気が……」
ハッとして飛び起きる。
何故かいつもより開放感があるな……と思っていたら、両手が剥き出しになっていた。
「元気そうで良かった〜やっぱり、室内で休むとよく効くね」
「感謝しろよ。特別に通してやったんだ……て、聞いてないな」
「シュンセイ、もう縫い終わったの?」
「まあな。ほら、これ探してんだろユメビシ」
そう言って、俺の手袋を手渡される。
「え、あぁ……どうも。ん?」
「さっき取り外した時、ボタンが取れてな。いいだろ直してやったんだから」
「いやそうじゃなくて」
「本当に器用だよね、私には無理〜」
「適材適所だろ」