「あ、ちょっと! もーーっやっぱりここだった! ソウヒー、そっち行ったよ!」
その知らせに呼応するかの様に、遠くでドッカン、ドッカンと物騒な破裂音と連動した揺れが伝わってくる。
下で何が繰り広げられているのか……と考えていると、小柄でなんだか全身赤っぽい少女が姿を現した。
「元気そうで良かったよシュンセー。……あれ、そこの子は?」
「あぁ。正直よく分からん」
「それは俺が聞きた…………いっ……」
緊張の糸が解けたせいか、丁度両手の繋ぎ目辺りが悲鳴をあげる。
それは沸騰した血液中に無数の針を流し込み、上腕から指先までの距離を突き刺さりながら循環していくような激痛。
心拍数が異常に上がり、まるで急速に回復しようとする様な、別の意思を感じる。
「……え、ちょっと! 大丈夫?!」
「さっき直に蹴りを受けたんだ。診てやってくれ」
二人が駆け寄る姿を、細く揺らいだ視界が捉える。
こんな悶え苦しむ羽目になったのは、果たしていつぶりだろうか。
「痛めてる所見せて……この手袋、一旦外すよ?」
そう親切心で触れようとした少女の手を、無意識に残っていた力で振り解いてしまった。
「いや……大……丈夫だ、すぐ治る」
「強がってんなよ、この阿呆。ここで死なれても迷惑だ」
「死な、ないから……平気だ。ほっといてくれ」
「うーん、そっか。ごめんね?」
――ドスっ。
慣れた手つきで、素早く、的確に、鳩尾へ深い一発。
それを隣で突っ立っている大の男ではなく、彼の腰ほどにしか満たない少女がやってのけたことに、困惑を隠せなかった。
さらに、疲労困憊の俺が意識を落とすには充分過ぎる威力だった。
「お前……相変わらず手際がいいな」
可愛いらしい姿こそしているが、流石あの女の眷属だ。
シンプルな肉弾戦ならば普通に俺より強いのだ、この子らは。
そう改めて感心していると、頬を膨らませながら抗議してくる。
「んもー、少しは手伝ってよね」
「はいはい」
処置しやすいよう、少年の袖を捲りあげ、トキノコの助手に専念する。
現代でも、この場所じゃ好んで着るやつが多いとはいえ、だ。
今の季節には珍しい薄手の和装に身を包み。
左右対称に……恐らく手甲をつけた上で、変わった形状の手袋をはめている。
「つくづく怪しいなこのガキ」
「うーん、なんだろ。まるで……厳重に保護、してるみたいな。やっぱり手を見られたくないのかな?」
「さあな……よし、これで最後だ。解けたぞ」
これだけ苦労して、ようやく片方。
ガチガチに固まったボタンを外し、硬く縛られた紐をを解き、手袋を引き剥がした。
すると、中から予想だにしなかった可能性が暴かれ、二人はしばし絶句した。
――少年が必死に隠そうとした物。
手甲も脱がせて、改めて現実と向き合う。
歳相応な若い皮膚は途中で終わっていた。
具体的には、肘と手首の中間に繋ぎ目があって。
その先からは赤黒く変色した、骨と皮からなる……老人特有のシワだらけの手。
明らかに少年本人の物ではなく、別人の一部。
何より中指に掘られた刻印。
これが指し示す答えを、知らないはずがなかった。
「………………なあ、おい。冗談だろ」
「シュンセイ……もしかして、この子」
「まさかユメビシ、なのか?」
――それは約70年前、俺の部下共々消息を絶っている少年と……同じ名前だった。