進路については現時点での考えということで
良くも悪くも、保留のような決定のような宙ぶらりんの状態だ。

廊下ですれ違う俺ではない全員が進路を確定させ涼しい顔をしているようで自信を失いかける。
その足のまま新聞部室の戸を開けた。

駿が一人で立っていた。
野球部の特集を一面で取り扱うと決まり、取材をお願いしていたのだ。

「ごめん、お待たせ」

駿は待ってないよと言うように首を横に振った。

「これあげる」

部室の真ん中にある大きな机の角を斜めに挟んで向かい合うように座る。

座りながら、駿は黒い猫のキーホルダーを差し出した。
手のひらにすっぽり収まるぬいぐるみだ。

「何これ、ありがとう」

「こういうの涼好きそうと思って」

たまたま入ったお店で見つけてつい購入したらしい。

「うんまあ。俺ってこういうイメージ?」

「いらないなら返して」

「あーだめだめ。ありがとう。もらう」

カバンから筆箱を出して、つける。
何もついていなかったシンプルな俺の筆箱が一気に色を変えた気がした。

インタビューは順調に終わった。
格式ばった質問を幾つかしながら、駿が度々混ぜる冗談に笑う。
ただいつもあのベンチでするような会話が部のボイスレコーダーにするする録音されていくのは小っ恥ずかしい。

録音終了のボタンを押したら、聞かずにはいられなかった。
ずっと立ち止まったままでは、
この胸の痛みを隠したままではいられない。

「おかしいって、思わなかったか?」

こんな言い方、傷つける。
さっきの和泉先生の言葉を反芻する。
知っているのに、傷つけたくなんてないのに。
痛いところから吐き出される言葉は棘を帯びているのかもしれない。

「だって男だし、友だちだし。俺は女子みたいに可愛くも綺麗でもないし」

「俺の感情だ。お前が決めるな」

駿は淡々と言った。
もうすでに決まったことで変えられない。
それはもう前提にあると言うように。

「ごめん」

「いいよ。わかるから」

傷つけないように選んだ言葉ではなく、俺の内側の醜い部分から出て来た言葉を、駿はわかると言った。

駿の気持ちはわからない。
ただ駿の中に芽生えた感情、その感情が芽生えた時に訪れた混乱はきっと今の俺と近い。
全てわかりはしないが知っている。
だから許してくれる。

思い返せば駿はいつも正直だった。
あげたい時はあげたがったし、会いたい時は会いたがった。
駿の言う好きはいつもそのまま好きだった。

だけど、だって男同士だし。
駿は人気者だし。
釣り合わないし。
友だちに戻れないかもしれないし。